2024年4月19日(金)

世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2018年8月28日

韓国PDの数々の「成果」、中韓の連携も

 まず、中国と韓国の動きをもう少し具体的に見ていこう。米国では、中国や韓国がいわゆる反日的PDを活発に行ってきた。中国のPDに関しては、中国系ロビー団体である「世界抗日戦争史実維護連合会(以下、抗日連合会)」が最も影響力を持ち、カリフォルニア州を拠点に反日宣伝活動を行っているといわれる。2015年9月には、同州サンフランシスコの観光名所である中華街において、日中戦争での対日抗戦を顕彰する「海外抗日戦争記念館」をオープンさせた。この年は、戦後70年であった。抗日連合会は、抗日戦争記念館のオープンが世界的にもインパクトのあるものとするため、このタイミングでオープンさせたのだと考えられる。

 この抗日連合会は、中国の共産党や政府などと緊密な関係を持っているといわれている。結成当時のメンバーの幹部は、中国との結びつきの強い中国系米国人であるとされており、これは現在の幹部も同様であると考えられる。

 また、韓国のPDに関しても、米国在住の韓国系米国人の動きが活発であるが、こちらはかなりの「成果」を生み出している。例えば、2014年3月に米国ヴァージニア州議会で、同州の学校で使用開始となる教科書に「日本海」という名称に加え、韓国が主張する「東海」という名称の併記を求める法案が可決された。こうした、教科書への「東海」の記載を求める法案は、ニューヨーク州やニュージャージー州でも飛び火するかのように提出されていた。

 さらに、慰安婦碑・像の全米における設置活動も活発に行われている。韓国系団体によって、2018年7月までに全米で計12か所に慰安婦像・碑が設置されているのだ。2010年にニュージャージー州のパリセイズパークに最初の慰安婦碑が設置されたのを皮切りに、米国東部を中心に慰安婦碑の設置の動きが活発になり、2013年には、ついに西部にもこの活動が拡大した。カリフォルニア州のグレンデールで初の慰安婦像が設置されたのである。それ以降も、ニューヨーク州、ヴァージニア州、ミシガン州などで、慰安婦像・碑の設置が続いており、止どまるところを知らない。日韓両政府が慰安婦問題の最終的解決で合意した2015年12月以降も、慰安婦像・碑がカリフォルニア州やニューヨーク州など、4か所で設置されている。

 さらに、この中韓両国が連携して日本を批判する姿さえ浮上してきている。慰安婦像・碑設置をめぐっては、抗日連合会が、ニュージャージー州やカリフォルニア州での設置を「自己活動の前進」と発表した。

劣勢に立たされる日本

 こうした中韓両国の働きかけが功を奏したのかどうかは断定できないが、米国内の報道にも日本批判が見られるようになった。例えばニューヨーク・タイムズなどは、社説で安倍首相を「右翼でナショナリスト(a right-wing nationalist)」と呼び、その政策を批判的に論じたことがある。2013年1月2日付の同紙の社説において、「安倍首相は性奴隷の問題をふくむ第二次世界大戦の時代の日本の侵略の歴史と謝罪を書き換えようとする、極めて深刻な間違いを犯そうとしている。また右翼でナショナリストの安倍は、1995年に植民地支配と侵略について謝罪した村山談話を新たな未来志向の談話に置き換えたいと述べている」と、極めて厳しい表現で安倍首相批判を行ったのだ。

 さらにこうした安倍批判が最も激しくなったのは、2013年12月安倍首相が靖国神社参拝を行った時であった。中国や韓国の厳しい批判に加え、米政府までもが「失望した」と公式に表明した。こうした表明は、近隣諸国との関係を悪化させるとの懸念から出たものとされたが、安倍首相がモーニング姿で靖国神社を参拝する写真映像は、世界に大きな衝撃を与え、「ナショナリスト安倍」のイメージを鮮明に映し出したといえよう。

 さらに、日本の立場が国際的に難しい状況に直面する事態も起きた。一つ目は、日本政府が「クマラスワミ報告書」に対して行った一部撤回要求である。1996年の国連人権委員会の「クマラスワミ報告書」は、第二次世界大戦期の慰安婦を「性奴隷」と結論づけており、日本政府は同報告書を作成した弁護士であるラディカ・クマラスワミ氏に、政府として部分的撤回を求めていたが、2014年10月に同氏が拒否した。

 二つ目は、2015年1月、日本政府から米国の大手出版会社マグロウヒルに対して行った抗議である。同社が発刊した米国の公立高校向け世界史教科書に、「第二次世界大戦中に日本軍が約20万人の14から20歳の女性を連行し、慰安婦として徴用した」という記述があり、これに対し日本政府は総領事館を通じ同社に訂正を求めたのだった。日本の主張に対しマグロウヒル社は、「慰安婦の歴史事実について学者の意見は一致しており、修正要求を受け入れない」と表明した。また、米政府も「学問の自由を強く支持する」と述べたと現地メディアが報じたのである。

 このように、中国や韓国の対米PDは、政治、教育、文化、宣伝など、幅広い分野に浸透し、日本が劣勢に立たされる事態が作り上げられていったのだ。


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