2018年5月23日、米国東部ニュージャージー州フォートリーの公園内で、慰安婦碑の除幕式が開催された。同州の公有地における慰安婦碑は、これで4基目である。
2017年9月には、同じく米国西部カリフォルニア州サンフランシスコの中華街で、慰安婦像が市民団体によって設置され、11月には、市長が像を市として正式に受け入れるという市議会の決議案に署名した。この動きに対し、姉妹都市である大阪市は、60年間続いたサンフランシスコとの姉妹都市関係を解消した。この像は、中国系米国人団体である「慰安婦正義連合」が主導し、韓国系団体と協力したとされている。
中韓によるPD攻勢に対して日本は?
このように、米国をはじめ、海外における慰安婦像・碑の設置活動は、現地の韓国系米国人が中心となり、一部では中国系も共闘する形で活発に行われている。こうした動きに危機感を抱いた日本は、安倍政権のもと、「戦略的対外発信」つまり「パブリック・ディプロマシー(以下、PD)」に重点を置き、予算を大幅に増額して日本の「正しい姿」の普及活動などを行っている。外務省のPD関連予算は、2015年度に、従来予算から500億円も増額された。以降も、増加傾向にあり、2018年度の予算は810億円にもおよぶ。
世界的にPDの主戦場といわれるのが米国である。米国では、中国や韓国の反日的なPDが目立ち、とりわけ近年では、慰安婦問題を含めた歴史認識をめぐる問題で、日本側が劣勢に立たされるような事態を招く状況が作られつつあった。
具体的には、上述の全米各地での慰安婦像・碑の設置活動をはじめ、2007年の米国下院の慰安婦決議案の採択や、米国内の公立高校で使用されている大手教育出版社「マグロウヒル」の世界史教科書における、旧日本軍が慰安婦を強制連行したとする記述、また、同社の教科書の一部の地図上での「日本海(東海)」という韓国側が主張する呼称の併記、といった状況が挙げられる。
このような歴史認識をめぐる動きは、日本にとって許容できるものではない。国際社会における日本のプレゼンスや評価に悪影響を及ぼし、せっかくのPD戦略にも不利に働いてしまうからだ。特に、同盟国米国において、日本のプレゼンスが後退したり、他国からの宣伝攻勢によって日本が劣勢に立たされたりすることで、同盟関係に影響を及ぼすような事態となることは、外交や安全保障の観点からも避けなくてはならない。
では、これまで日本は、こうした他国によるこうしたPD攻勢に対し、効果的にPDを展開できていたのだろうか。主に米国における中国や韓国の動きを中心に紹介しながら考えてみたい。