日米間に認識のギャップも
しかし、一見、順調に見える日本の新PD戦略だが、依然、日米間に認識のギャップも見受けられる。
2017年のサンフランシスコにおける慰安婦像設置と、その後の大阪市との姉妹都市関係見直しまでの一連の流れは、日本国内では大きなニュースとなったが、一方で、米国内でこの事態を知っている人は少なく、現地の反応も薄いとされている。ワシントン・ポストは、この事態を「なぜ日本が植民地時代の『慰安婦』像の論争で敗れ続けているのか」といった見出しで取り上げ、日本政府や国民がこの問題に執着しすぎており、それが逆に活動家にやり甲斐を与えている、とする専門家の見解を紹介した。歴史問題について日本を非難する中国や韓国のPDに対して、日本は強く反応し、一方の米国は静観している、といった日米の認識のギャップが浮き彫りとなった出来事だともいえよう。
不断の努力と中長期的観測が欠かせない
21世紀の今日、政府が情報を独占できる時代ではなく、PDを取り巻く環境は大きく変化している。こうした時代にあっては、PDは、政府から対象国の世論への一方通行の働きかけだけでは期待した効果が得られないだろう。相手の考え方やニーズを理解し、双方向のコミュニケーションを図りながら、働き掛けを強化していくことが重要になってきている。
また、歴史認識をめぐる問題についての発信は、慎重に行わなくてはならない。なぜなら、最近では、米国はもちろん、世界的に女性の権利擁護の意識が高くなってきており、とりわけ女性への性犯罪は厳しく断罪されている。これに関連して、慰安婦問題が、今日的な人権や女性の権利の問題として受け止められる傾向があり、実際に日米間で認識に乖離が見られる事態となっている。
こうしたなかで、自国の主張や取り組みが他国よりも「正しく」、他国の主張が「間違っている」といった形式の発信は時代の流れにも逆行し、マイナスの結果を招くことになりかねない。歴史問題について発信する際には、今日的な意味合いを十分に勘案し、スマートに対応していく必要がある。
また、特に同盟国米国に対しては、通商や安全保障のような政策に直結する分野において、一般世論のみならず、有識者に対する働きかけに力を入れていくのも有効な取り組みであろう。例えば、PDの担い手として日米のシンクタンクが連携し、米国の有識者や大学などを巻き込んで、人的交流や共同研究を行うといったことが考えられる。
PDが効果を発揮するまでには、不断の努力と中長期的観測が欠かせない。今後、特に米国における効果を検討するにあたっては、米国世論の動向や、主要メディアの取り上げ方、さらにシンクタンクの研究などにおける日米同盟や安倍政権に対する研究量や見解を細かく分析していく必要がある。
2018年度のPDには、810億円もの予算がついた。PDを積極的に展開するという日本政府の意志に変わりはない。そうであればこそ、PDの対象国を取り巻く政治、経済、外交などといった環境の変化を敏感に受け止め、それらを日本のPDにプラスに転換させ、より効果的にPDを展開する必要があるのだ。
次の機会では、日本のPDにとって最大のライバルともいえる中国の対米PD現状を、より詳しく見ていくこととしたい。
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