2024年4月27日(土)

世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2018年8月28日

中国の主目的は「日米離反」

 こうした中国や韓国の対米PDの戦略目的は一体何だろうか。中国の対米PDについては、主目的は「日米同盟の弱体化」であり、「そのための日米離反策として歴史問題を使い、米国側に日本不信を広める」ことにあるといわれている。

 一方、韓国の対米PDについては、反日的PDを繰り広げていても、それは一部の活動家によるものであり、中国のように国家戦略として日米離反を意図しているわけではないと考えられる。

 つまり、日本にとっては、米国での歴史認識をめぐる問題を考える際、必ず中国の存在を念頭におく必要があるのだ。慰安婦像・碑活動でも韓国系団体のバックには中国系団体が存在し、中国の外交目標として「日米離反」が画策されてきた。また尖閣諸島問題でも、中国は「史実」に基づき、中国固有の領土であるとし、自国の主張を一歩も譲ろうとしない。

 安倍政権はこうした中韓両国の活動、とりわけ米国における中国や韓国系米国人が現地で持つ影響力に危機感を持ち、PD強化策を打ち出してきたのである。安倍首相は2012年末の自民党総裁選への出馬当初から、尖閣諸島問題を念頭に、領土や主権に関する国内外に対する普及・啓発・広報活動の重要性を訴え、また、慰安婦問題に関する河野談話の見直しを主張し、国際社会に日本の正当性を主張する姿勢を示していた。

「反論」する日本の働きかけは逆効果に

 このように、安倍政権のPD取り組み姿勢は、米国を舞台に進行していた中国や韓国の反日的PDに対する批判や反論を主体としたものだった。第二次安倍政権の発足当初から2015年初めまでの対応を具体的に見ていくと、日本の歴史修正主義が問題だといった批判や宣伝に対し、日本は、歴史問題での韓国側などの主張に対する「訂正」や「撤回」を求める形での発信や、「反論」が主体であり、かつ、その「反論」などが政府機関である大使館や総領事館が前面に出る形で行われていた。

 PD本来の目的が「相手国の国民に働きかけ、自国の政策について理解を得ること、あるいは支持を得ること」にあるとすれば、こうした日本の働きかけは逆効果となることが多かった。日本は、第二次世界大戦での行いを正当化し、謝罪を撤回しようとしているのではないかといった反応も米国社会から噴出し、米国政府までもが日本の主張に疑問を投げかけるといった結果に終わってしまっていた。

 ニューヨーク・タイムズなど米主要メディアの当時の報道でも、日本の対外発信が効果を発揮したといえるものはほとんどなく、日本に厳しい報道がなされることさえあった。結果的に、米国において日本のイメージを悪化させる事態となることもあったのだった。

好転した日本のPD環境

 しかし、2015年度に入り、状況に変化が見え始めた。安倍政権が、歴史問題についてポジティブなメッセージの発信に努め、また、米国国内で米国人など第三者による発信を行うなどの工夫を凝らし始めるなど、PDの新戦略に乗り出したからだ。また、実際の政策も、PDで掲げた取り組み内容に相反することなく同時進行で実施された。具体的には、2015年度以降は安倍首相による靖国神社参拝は行われず、戦後70周年談話でも「植民地支配」、「侵略」、「お詫び」、「反省」といったキーワードを散りばめるなど、比較的穏当なものとなっていた。

 このように展開された日本の新PD戦略は一定の効果を生み出し、2017年の戦後70年目となっても、米国からのネガティブな反応は少なく、米国メディアでも「歴史修正主義」や「ナショナリスト安倍」といった批判は姿を消していった。

 また、米国における日本のPDをめぐる環境にも変化が見られた。韓国政府が慰安婦問題などで執拗に日本批判を続けたため、米国政府のなかで韓国への疲弊感(「韓国疲れ(Korea Fatigue)」)が高まってきたのだ。韓国疲れとは、韓国が歴史問題を取り上げて執拗に日本を批判するばかりで、第二次安倍政権と韓国の朴槿恵政権(当時)誕生後、首脳会談が約3年半開かれず、また、韓国政府が日本との「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」の締結を長年拒否していたことなどからくるものであった。

 また、2018年4月には、韓国系米国人住民らが、米政府の公式文書や地図などで「東海」併記を求める請願書を提出していたのに対し、ホワイトハウスがこれを却下した。

 こうした韓国側のいわば「オウンゴール」が、日本のPDの追い風となった可能性もある。


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