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2018年10月11日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

出稼ぎ斡旋業者の建物内に掲げられた日本語の標語(筆者撮影)

 「留学」を装った日本への「出稼ぎブーム」が続くベトナムーー。“偽装留学生”の送り出し現場はどんなものなのか。留学斡旋業者が首都ハノイで営む日本語学校を訪ねてみた。

 学校があるのは、ハノイ中心街から車で30分ほど行った住宅街だ。車もすれ違えない狭い路地の続く一帯で、両側にぎっしりと並ぶ2〜3階建ての古い建物には、大量の洗濯物が干してある。そんな下町の一角に学校がつくられていた。

 学校は3階建てのビルを丸ごと使っていて、1階は事務所と留学希望者が日本語を学ぶ教室、そして2階に教室が二つ、3階は学生の寮になっている。学校を経営するV社の「採用担当部長」ファンさんが出迎えてくれた。

斡旋業者は、ハノイだけで200を数える

 「うちの会社はハノイに何カ所か学校があるんです。ここは小さい方です。学生は100人もいませんからね」

 ブランド物のシャツとズボン、革靴に身を包んだファンさんは、リッチな若手ビジネスマンといった雰囲気だ。

 彼は日本で3年間、実習生として働いて経験があり、日常会話には十分な日本語を話す。学校で教えている日本語教師も、日本で実習や留学を経験したベトナム人が大半なのだという。

 留学斡旋業者の数は、ハノイだけで200以上とも言われる。しかし、V社のように日本語学校まで持っている業者は多くない。「日本語教育までやっているのは1割ほどで、大多数は留学希望者を集め、日本語すら教えず日本の日本語学校へ送り込んでいる」(現地の事情通)のが実態だ。こうした業者こそ、「出稼ぎブーム」の仕掛人なのである。

 「出稼ぎブーム」の経緯を簡単に振り返っておこう。日本へ留学するベトナム人が増え始めるのは2012年頃からだ。同年、ベトナム人留学生の数は8811人を数え、前年から3000人以上増加した。以降、年を追って増加のペースは加速し、現在では8万人以上にまで膨らんでいる。

 その背景には、日本側の事情がある。政府は2008年から「留学生30万人計画」を進めていた。しかし11年に福島第一原発事故の影響もあって、留学生全体の7割近くを占めていた中国人が減少に転じた。中国経済が発展し、日本へ出稼ぎに行くメリットが薄らいだことも減少に拍車をかけた。そこで政府は留学生を確保するため、ビザの発給基準を大幅に緩めた。結果、ベトナム人を中心に出稼ぎを目的とする“偽装留学生”の流入が起き始める。

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