WEDGE REPORT

2018年10月17日

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山口亮子 (やまぐち・りょうこ)

ジャーナリスト

2010年京都大学文学部卒業、2013年北京大学歴史学系大学院修了、時事通信社を経て16年よりフリージャーナリストとして活動。

 世界的な和食ブームで、海外には日本食レストランが昨年10月時点で11万8000店あり、2年余りで3割も増えている(農林水産省の調査による)。しかし、こうした店での国産米の使用は多くない。ネックになっているのが価格で、価格競争力のあるカリフォルニア米が世界に販路を広げているのとは対照的だ。これに国産米が取って代わることも夢ではないと、米国やウルグアイでコメビジネスを展開する田牧一郎さんは言い切る。

カリフォルニアの水田での種の空中散布(写真はいずれも田牧一郎さん提供)

 「カリフォルニア米の生産量は70万~80万トン(白米ベース)。これをそっくり日本のコメに置き換えようと思えば、できる」

 田牧さんの言葉はにわかには信じがたいものだった。カリフォルニア米といえば、播種から刈り取りに至るまで機械化一環体系が確立されていて、大規模、かつ生産費が安く、価格競争力で日本は遠く及ばないイメージがある。

すでにカリフォルニア米と競争できる国産米も

田牧一郎さん

 田牧さんは、カリフォルニアの大規模経営を熟知している人物だ。1989年にカリフォルニアに移住し、90年代にカリフォルニア産コシヒカリのブランド「田牧米」をつくり、高い評価を得て一大ブランドに育て上げた。現在は、ロサンゼルスの輸入販売会社Tamaki Farms Inc.の代表を務める。カリフォルニア米に国産米が価格で挑むということは、少し前なら考えにくかったが、今はそうではなくなりつつあるというのだ。

 現地の干ばつによる水不足で、農家が大量の水を使うコシヒカリのようなコメを避けるようになり、値上がりしたことも一因だ。しかし、主な理由は日本の稲作の構造変化にある。高齢農家の離農が進み、大規模化が全国的に加速している。規模を拡大するには、作業の効率化が不可避だ。労働時間の4分の1を占める育苗と田植えをやめ、直播(ちょくは)と呼ばれる種を田んぼに直接まく方法に切り替えたり、肥料と農薬をまく回数を減らしたり、そもそも手間のかからない品種に切り替えたりといった、手間が省け生産費の低減に直結する試みが広がっている。

 こうした流れの中で、田牧さんは20ヘクタール以上を経営する農家ならば、60キログラム当たりの生産コストを現状の1万円強から6000円程度に削減することができ、輸出の道が今以上に開けると考えている。

カリフォルニアで自分の管理する広大な水田に立つ田牧一郎さん(1990年代後半)

 その実、一部の国産米はすでに価格面でカリフォルニア米と競争できるレベルになっている。田牧さんは2016年から、茨城県産米をサンフランシスコに輸出するのを手伝ってきた。スーパーの店頭価格は、高くて15ポンド当たり(6.8キログラム)39ドル99セント。店によっては、マージン分の上乗せを削って20ドル台で販売する場合もある。対して、カリフォルニア産コシヒカリの店頭価格は30~35ドル。輸出するコメは雑種第一代目で多収の「ハイブリッド米」ながら、カリフォルニア産コシヒカリに比べて食味が良いため、特に30ドル以下の値を付けるとかなり売れるそうだ。

 この輸出で農家に支払われる額は60キログラム当たり約7000円ほどだ。輸出米生産に支払われる新市場開拓に対する補助金を合わせると、1万円ほどになる。ただ、新市場開拓に対する補助金が出るようになったのは今年からのことで、それまでは補助金はなく、農家は手取り7000円ほどで輸出をしていた。

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