世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2018年11月1日

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桒原響子 (くわはら・きょうこ)

PD・国際公共政策研究者

1993年生まれ。愛知県出身。2012年米国ウエストバージニア大学留学中、国際政治学や通訳翻訳等を学び、2017年大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。公益財団法人笹川平和財団安全保障事業グループ研究員等を経て、現在、パブリック・ディプロマシーに関する研究活動等を行う。

 「シャープパワー」という言葉がちょっとした流行語になっている。米シンクタンク全米民主主義基金(NED:National Endowment for Democracy)が2017年11月に開催したシャープパワーに警鐘を鳴らすフォーラムで、初めて使われた言葉だ。同フォーラムの報告によれば、シャープパワーとは、権威主義国家が、強制や情報の歪曲等の強引な手段を用いて、未熟で脆弱な民主主義国家に自国の方針を飲ませようとしたり、世論を操作したりするものだ。ここでいう権威主義国家とは、中国やロシアのような国を指す。

中国PDは、国際社会からの警戒感が高まり「シャープパワー」と批判されている(写真:ロイター/アフロ)

トランプ政権誕生後、中国PDへの批判高まる

 シャープパワーという言葉が流行った背景には、米国等、国際社会からの対中警戒感がある。米国では、中国の経済活動や軍事行動が米国の国益を脅かすという危機感が高まるのに合わせて、中国の代表的なパブリック・ディプロマシー(PD、広報文化外交)の手法とされてきた孔子学院などが、シャープパワーとして批判されるようになってきているのだ。

 シャープパワーは、軍事力等のハードパワーと、文化・教育・共通の価値観といったソフトパワーの中間に位置づけられる。一般的に、後者のソフトパワーを使って対象国の世論に働きかけ、自国に対する好感や信頼感を醸成し、対象国の世論を味方につけ、外交関係においても自国の利益に資するようにする手法を、PDという。

 これまで米国を主戦場とした各国のPDの競合は、中国の容赦ないやり方にばかりスポットが当たってきた。中国は長年、主に米国に対し、政治・経済・文化面で、かなり戦略的にPDを展開してきた。その影響力は着実に効果を出し、一時は、「アジアの中で最も重要なパートナー」を、中国と見る世論が、日本と見る世論を上回った。また、歴史認識問題に関して、韓国と協同した反日活動が功を奏し、日本は国際社会から「歴史修正主義者」という扱いを受けたこともある。

 しかし、トランプ政権誕生後の米国で、こうした事態が大きく変化した。中国は、世論工作や宣伝活動、米シンクタンクへの資金提供といった、そのなりふり構わぬPD戦略を、米国から「プロパガンダ」や「スパイ活動」と批判されはじめ、一部がFBIの捜査対象となっているのだ。

 中国のPDは広く一般的に考えられているソフトパワーを使った方途とは異質のものとされる。世論工作、嫌がらせ、圧力等といった権威主義国家ならではの「強引な」、「鋭い」手法である要素が強いことから、国際社会では警戒感が増大し、「シャープパワー」という言葉が誕生したと考えられる。

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