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2018年12月3日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞元論説委員長

産經新聞元論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

色丹島(HomoCosmicos/gettyimages)

 「2島返還」の可能性がいよいよ濃厚になってきた。12月1日、ブエノスアイレスで会談した安倍首相とロシアのプーチン大統領は、河野太郎、ラブロフ両外相を平和条約交渉の「責任者」とすることで合意した。「1956(昭和31)年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速する」というさきのシンガポールでの日露首脳合意を具体化するのが狙い。この合意は、条約交渉の最大焦点、北方領土の帰属問題について「2島返還」を念頭においており、両外相を中心とする新たな体制での交渉が始まれば「2島」の流れが一気に強まる可能性がある。

主権放棄、国の存立を脅かす

 1日の会談では、森健良外務審議官とモルグロフ外務次官をそれぞれ首相と大統領の「特別代表」に任命、実務交渉にあたらせ、1月の首相訪露前に外相会談を行うことでも合意した。

 2島返還をめざすとなれば、敗戦のどさくさに乗じた旧ソ連の不法占領を非難、官民挙げて「4島返還」を要求し続けてきた日本にとって、大きな方針転換となる。〝火事場泥棒〟にも等しい違法行為に屈して固有の領土を明け渡せば、主権放棄にもつながり、国家の存続をも脅かしかねない。未来永劫、禍根を残すだろう。

 安倍首相は今回の首脳会談に先だつ11月26日の衆院予算委員会で、シンガポール合意に関して、「私たちの主張をしていればいいということではない。それで(戦後)70年間まったく変わらなかった」とこれまでの交渉が成功しなかったことに言及。「戦後70年以上、残されてきた課題を次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つ」と強調した。首相は11月14日、シンガポール会談の際にも、同様の決意を同じ表現で披瀝している。

  安倍、プーチン両首脳がシンガポールで「交渉の基礎」とした「1956年の日ソ共同宣言」は、平和条約交渉の継続に加え、ソ連が歯舞、色丹の両島を平和条約締結後に日本に引き渡すことが明記されているが、国後、択捉は盛り込まれていない。シンガポール合意では、国後、択捉が明記され、その帰属についての交渉が謳われた1993(平成5)年の東京宣言は無視されている。

 こうした経緯の上に立って、交渉に〝終止符〟を打つというのだから、安倍首相が「4島返還」の方針を変更し、「2島」返還で最終的な決着を図る考えであると受け取られるのは自然であり、シンガポール会談について、日本のメディアが「方針転換」と大きく報じたのも当然だった。

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