野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2018年12月12日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

 中国通信大手・ファーウェイ首席財務官・孟晩舟がカナダ・バンクーバーの空港で逮捕されたニュースが米中関係の対立と絡んで大きな波紋を広げている。ただ、中国人を含めて、ほとんどの人間にとっては孟晩舟という女性がどのような人物であるのか、ファーウェイ創業者・任正非の娘というところ以外、ほどんどイメージがわかないのが実感だろう。任正非自身が滅多にメディアの前に姿を見せない神秘的な経営者のイメージが強く、その娘も神秘のベールに包まれている。

12月1日にカナダ当局に逮捕されたファーフェイ首席財務官・孟晩舟氏(写真:ZUMA Press/アフロ)

孟晩舟が「バンクーバー経由」を選んだワケ

 孟晩舟は12月1日、香港からキャセイ・パシフィック航空838便に搭乗し、バンクーバー経由で出張先のメキシコに向かおうとした。そのバンクーバーで乗り継ぎの際に米国からの通報を受けたカナダ当局に逮捕された。米国のファーウェイに対する捜査を察知して、最近、米国への入国を控えていたという情報は正確であろうと思われる。それは、このルートが不自然だからだ。

 目的地がメキシコシティだとして、香港からそもそもメキシコへの直行便は飛んでいない。香港からは米国経由がフライトの選択肢も多く、また移動時間も短い。孟晩舟は、米国でのトランジットを回避したこともあるだろうし、米国の航空会社もあえて選ばなかったのだろう。航空機には、国籍が付与されており、事実上、空飛ぶ領土という要素があり、乗客名簿なども当局に提供されやすい。搭乗したキャセイは香港の航空会社なのでその点は安心だ。フライトを調べてみると、バンクーバーからは、メキシコの航空会社に乗り継ぐ予定だった可能性が高い。

もし「成田経由」を選んでいたら……

 実は、米国やカナダの経由以外にも、香港から効率的にメキシコシティにいけるルートがある。それが成田経由だ。成田からは全日空のメキシコシティ直行便が飛んでいる。孟晩舟はこれに乗るという選択肢もあったと思うが、バンクーバーには家族が暮らしていることもあり、メキシコ出張のあとに立ち寄ることを計画していたのかもしれない。過去のカナダ滞在では問題なかったため、米国が逮捕状をとってカナダ当局に協力要請するところまでは読めなかったのだろう。

 もし孟晩舟が成田経由で飛んでいたら、米国は日本に協力を依頼しただろうか。おそらくしなかっただろう。日本と米国は司法協力の関係は結んでいるが、中国要人の逮捕の執行は高度な政治判断となり、日本の意思決定システムでは少なくとも数週間は必要になる案件だ。米国はその点をよくわかっている。伝えられるところでは米国が孟晩舟の出張を察知したのはフライトの2日前。カナダという日常的な国境を超えた捜査協力のルートがある相手だからこそ可能になった逮捕劇であろう。もちろんメキシコはトランプ政権と対立しているので、捜査協力など応じるはずがない。

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