トランプを読み解く

2018年12月18日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

 世界を揺るがす1人の男、ドナルド・トランプ米大統領。彼はその「不規則発言」や「不規則行動」で世界を驚かせてきた。「不規則」といっても、その「不規則」がトランプ氏の「規則」なのだ。異端児や変人といっても、相対論的にいわゆる一般人との関係はそもそもコインの裏表にすぎない。

トランプ米大統領(写真:AP/アフロ)

 一見常識外れの思考回路や行動パターンではあるが、実はトランプ氏独自の原理原則に裏付けられている。そこから一定のルールやメカニズムを見出し、トランプという人間の本質を読み解くことができれば、いま起きている様々な事象も解釈できるようになるし、さらに先の予測もある程度可能になる。

 トランプ氏の大統領当選から今日に至るまでの2年、この時系列に沿って彼の人間像を追ってみたい。最初に断っておくが、私はあくまでも手元の資料と自分の思考回路に基づいて仮説を立てるわけで、もちろん異なる文脈で異なる仮説を立てることも可能だろうから、私の唯一性を強調するつもりはまったくない。私の職業は経営コンサルタント。故に情勢予測そのものが主たる仕事ではなく、仮設を立て、実務上であり得るシナリオを描き、これらに備えて経営上の対策を講じ、リスクを最小限にするのが仕事だからである。

 まず初回はお金の話から入っていきたい。

トランプ氏の給料と「機会損失」

 トランプ米大統領の年俸はいくら? 1ドルだ。冗談ではなく、本当の話だ。実はもともと米大統領の年俸は40万米ドル(約4500万円)と決められていたのだが、トランプ氏はこれを辞退し、たった1ドルという年俸を受け取っているのである(2016年11月14日付け BBCニュース)。要するにただ働きだ。

 この金銭感覚は、一般の日本人サラリーマンどころか、少々裕福な日本人経営者でも容易に理解できない。トランプ氏は何を考えているのだろうか。

 フォーブスが実施した調査によると、トランプ氏の推定資産総額は2017年10月現在31億ドル(約3500億円)。法律規程上の大統領年俸40万米ドル(約4500万円)がトランプ氏の資産総額に占める割合はわずか0.013%。仮に大統領2期目も続投し、合計任期が8年になったとしても、その割合は0.1%にしかならない(資産総額を変化なしとする)。

 本来得られるべきであるにもかかわらず、他者の債務不履行や不法行為によって得られなくなった利益は逸失利益という。ただ、この場合は他者の債務不履行や不法行為は一切なく、トランプ氏は自らの意思によって決断したのだから、それは「機会損失」と解釈したほうが適切であろう。

 例を挙げると、A君が大学を卒業して某有名企業のB社から内定をもらったにもかかわらず、最終的に内定を蹴って彼は海外の大学院へ3年間留学することを選んだとしよう。これもA君が自らの意思で「機会損失」(B社の年俸×3)を引き受けたと見ていい。さらに顕在的コストとして留学費用もかかってくることはいうまでもない。

 単純明快で分かりやすいことだが、A君は自らの意思である種の投資を決断したのである。彼は海外留学の経歴や学歴を積み上げることによって、将来的にもっと大きな収益を見返りとして期待しているのだろう。その収益総額は最終的に上記の「機会損失」と留学費用の総和を上回らなければならない。これで考えると、「機会損失」は時と場合によっては「投資」になり得るわけだ。

 このような計算を、A君は意識的にあるいは無意識的にしていたのだろう。

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