チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年12月25日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

(写真:AP/アフロ)

 中国で、カナダ人2名が拘束された。米国の要請に従って中国通信機器大手である華為技術(HUAWEI)の孟晩舟副会長を逮捕した、カナダに対する中国側の報復だとも言われる。

誰もが「中国のカナダに対する報復」という印象を持つ

 一人は、ブリュッセルに本部があるシンクタンク、「国際危機グループ(ICG)」の北東アジア担当、マイケル・コブリグ氏である。コブリグ氏は、カナダの外交官であり、北京や香港での勤務経験もあることから、民間人の立場でありながら政府関係者でもあると言える。こうした立場が、大きな政治的影響力を持つ中国民間企業幹部の逮捕に対する報復のターゲットとして適当と考えられたのかも知れない。

 もう一人は、北朝鮮との交流事業を行う非営利団体を運営するマイケル・スパバー氏であり、中国国営メディアは、「中国の国家安全に危害を及ぼす活動に従事した」容疑で遼寧省丹東市国家安全局の取り調べを受けていると報じている。スパバ―氏の拘束は、中国が北朝鮮に対して配慮する必要がないことを示唆するものでもある。丹東市の北朝鮮ビジネスと北朝鮮との交流は、以前から、中国指導者に目を付けられていた。

 丹東市に所在する企業の会長が、北朝鮮に核とミサイル開発物資を密輸した容疑で逮捕され、これに関連したと見られる丹東市共産党委員会書記(丹東市トップ)が更迭されたのは、2016年9月のことだ。2017年4月6日および7日に米国で行われた米中首脳会談において、トランプ大統領が、北朝鮮に対する経済制裁を習近平主席に強く求める以前のことである。さらに言えば、2016年11月に、トランプ氏が大統領選に勝利する以前のことでもある。遼寧省の北朝鮮との関係は、米国の圧力によって中国指導者が仕方なく対処しているのではなく、そもそも中国国内政治に関係するものでもあるのだ。

 こうした中国国内政治の状況から、スパバ氏の拘束には、カナダに対する報復以外の要素が含まれている可能性もあるが、そうした事情が表面に出てくることは、まず、考えられない。それよりも、二人の拘束のタイミングを見れば、誰もが「中国のカナダに対する報復」であるという印象を持つだろう。中国政府が公式に口にしなくとも、である。同時に、中国外交部は、記者会見における質問に答えて、「中国にいるカナダ人は、中国の法を守る限り、安全である」と述べているが、これは、諸外国が「カナダ人をターゲットにしている」と認識することを、中国が予め承知していたことを示すものである。

 中国は、明言しないものの、「見れば分かるだろう」と言わんばかりの行動をとることがある。こうした行動に関する中国政府等の発言は、他国にとって、中国の意図を理解するためのシグナルになるのだ。しかし、最近の中国では、一つの事象に関して2つの異なるシグナルが出てくることがある。

 中国では、報道を含む公的な発信は、全て共産党によってコントロールされている。報道等を通じて異なるシグナルが発せられるということは、中国共産党内の意見が集約されていないことを意味する。ただ、これだけでは、中国共産党内で権力闘争が激しさを増した結果なのか、あるいは指導部が故意に異なるシグナルを発信しているのかは断言できない。

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