合法的なビジネスに投資も
こうしたISのテロ活動を支えているのが彼らの隠し持っている豊富な資金だ。ISはかつて、石油の密売などで60億ドル(6000億円)もの資金を持っていたが、米紙ワシントン・ポストなどによると、現在保有している現金や金塊・金貨などの資金は4億ドル(400億円)程度と見られている。
この資金の一部は砂漠の地中に設けられた秘密の「地下金庫」などに隠匿されており、実際にイラク北部ではこうした「地下金庫」が発見されている。だが、驚くべきことに、ISは資金の一部をイラクやトルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、レバノンなどの銀行に預ける一方、これらを利用して合法的な投資を行って運用しているようだ。
同紙によると、投資先としては、アラブ諸国の不動産、ホテル、自動車販売、洗車ビジネスなどだ。ISは保有資金を残党勢力への支援や将来のテロ活動のための準備金として使っており、戦闘員の給料や家族手当、さらには刑務所に入っている戦闘員の弁護費用までも賄っているという。
ベイルートの専門家は「彼らにとって、米軍のシリア撤退はずっと待ち望んできたものだ。米軍がいなくなれば、復活できると彼らは確信しているし、テロを起こすことで米部隊撤退を加速させようとしている」と指摘、IS復活が現実的な脅威であることを強調している。
今回のテロ事件について、米民主党のリード上院議員は「トランプ大統領の愚かな突然の撤退発表がテロの原因だ。中東全域にとって戦略的な過ちだ」と大統領を批判した。大統領は昨年12月9日の撤退発表で「ISに歴史的に勝利した」と宣言したが、ハジンでのIS掃討作戦が進行中の撤退発表には多方面から強い疑問の声が上がっていた。今回のテロはISの壊滅が終わっていないことを図らずも浮き彫りにする形となった。
しかし、トランプ大統領がテロを受けて米軍撤退を思いとどまると考える向きは少ない。側近らの反対を押し切り、独断で発表した撤退方針を撤回することはありそうにない。なによりもシリアからの米軍撤退は選挙公約であり、同国に駐留し続けることが米国にとって得にならないと考えているからだ。
トランプ大統領としては今後、撤退を進める一方で、米兵の人命を損なうことのない空爆を強化していくことぐらいしか選択肢はない。だが、「強力な地上部隊なき空爆」ではISを壊滅することはできない。その地上部隊の中核をなしてきたクルド人は撤退決定でトランプ大統領に見捨てられたとして、IS掃討作戦にやる気を失っている。
トランプ大統領はオバマ前大統領がきちんと後始末をしないまま、イラクから米軍を撤退させため、ISを生んだと非難してきた。しかし、ISを壊滅する前にシリアから米軍を撤退させれば、そうした非難は自らに返ってくるだろう。大統領のジレンマは深い。
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