2024年4月19日(金)

中島恵の「中国最新トレンド事情」

2019年1月29日

社会問題になっている「覇座」とは?

 乗車から19分後の午前8時20分、最初の停車駅である深圳北駅に到着。それから先の停車駅は広州南駅、長沙南駅、武漢、鄭州東、石家庄、北京西駅と続く。ほとんどが高速鉄道のためにできた新駅で、市内までの距離は遠く不便らしい。西九龍駅から私の隣に座っていた40代くらいの男性が広州南駅で下車したので、そこから先はずっと1人で2人分をゆったりと使うことができた。

 乗車してみて気がついた点がいくつかある。車内の暖房はわずかしか入っていないこと、高速鉄道用のWi-Fiがあること(ただし不安定)、日本の新幹線のような「喫煙ルーム」はないこと、ゴミ集めや掃除をする乗務員が頻繁にやってくること、などだ。私も含め、みんな上着を脱いでいたが、それで「寒い」と感じるほどではない。だが、「暖かい」というほどでもなく、車両のドアは常に開けっ放しなので、駅に停車するたびに、すーっと外から冷たい風が入ってくる。また、中国ではまだ喫煙者が比較的多いが、喫煙ルームがないため、同じ車両の男性数人は、停車のたびにプラットホームに出て喫煙していた。ゴミ集めについては、日本と違い頻繁に回ってきて回収してくれた。

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 ところで、乗車していて思い出したのは、中国で今、大きな社会問題のひとつとなっている「覇座」だ。他人が購入している指定席に勝手に座り込み、席を占拠してしまう問題で、その座席を購入した乗客が「そこは私の席です」と何度いっても、聞き入れてくれない。乗務員がいっても無駄で、ときには殴り合いのケンカや乱闘騒ぎにまで発展してしまうこともある。

 私もこれまで中国の高速鉄道で、何度も「そこは私の席では?」と聞かれたり、逆に、自分の席に誰かが座っていた、という経験がある。幸い、自分の席だといってきた人は間違っているとすぐに気づいたり、私の席に座っていた人はどいてくれたのでよかったが、もし押し問答になっていたら……と思うと心配だった。今回の旅でも、一度だけ「そこは私の席では?」と、武漢から乗車してきた女性から声を掛けられた。切符を見せてもらうと「13号車2A」。つまり同じ2Aだが車両が間違っていた。高速鉄道に乗車した経験がまだ少ないからなのか、なぜ違う席なのに居座り続けるのか、これについても明確な理由はわからないが、中国で鉄道の旅をする際、注意が必要だ(とくに一人旅で、指定席がない一般の普通列車に乗車する場合)。

かなり賑やかな車内

洋式トイレ。使い捨ての便座シートもある

 トイレも“見学”してみた。各車両の後方に和式と洋式が各1つずつ設置されている。洗面台もあり、日本の新幹線並みにきれいだ。トイレに誰かが入っているとき、席に座っている人にもわかるように表示もある。乗車中、何度かトイレに行ったが、1等席ではトイレの使い方もきれいで、ほとんど日本と同じだと感じた。

 ただし、日本の新幹線と大きく異なるのは、車内の「騒がしさ」だろう。うるさいというほどではないが、常に誰かが電話をかけていたり、音量を大きくしてスマホでドラマを見たり、ゲームをしたりしている。飛行機のモニターでも、ヘッドホンをつけずに大音量のまま映画やドラマを見ている人がいるが、それと同様。中国人の中には、この音量が気になる人は少ないのか、誰も気に留めていないようだったが、日本の車内に比べると、かなり賑やか(笑)なのは確かだ。私の場合、取材であちこち歩きまわったり、乗客を観察したりしているうちに、あっという間に時間が経ったので“車内観察”に飽きることはなかったが、1等ではなく2等席だったら、もっと騒がしかった可能性もある。

 9時間の旅に備えて持ち込んだ本を1冊読み終えたところで、ちょうど北京西駅に到着する時間になった。車窓から見える風景は田園がほとんどで、駅が近づくと高層マンションがある程度だった。車内は途中の広州南駅で9割ほど座席が埋まった。途中で入れ替わりはあるものの、私と同じように、西九龍から北京西駅までずっと乗車している家族連れやビジネスマンも何人かいた。高速鉄道のチケット(1等以上)は飛行機よりも高い上に9時間もかかる。それなのに、物珍しさも手伝ってなのか、わざわざ鉄道を選んで乗る乗客もかなりいたのは意外だった。

 午後5時01分。定刻通り北京西駅に到着。すっかり日が暮れていた。下車して階段を降りると、北広場と南広場の左右に分かれている。前編にも書いた通り、西九龍駅で中国に「入境」しているので、ここにはイミグレーションも税関もない。改札を通って、そのまま外に出れば、もう北京市内だ。北広場は地下鉄の北京西駅と直結しているので、そのまま地下鉄で移動することができる。南広場に出てタクシーを拾うと、運転手さんが「今、気温はちょうど0度だよ。南から来たんじゃあ、寒いだろう?」といって暖房をつけてくれた。震えるような寒さは、南国の香港とはまったく異なっていて、陸路で1日に2000キロ移動したのだ、ということを実感させてくれるのに十分だった。

  
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