矢島里佳の「暮らしを豊かにする道具」

2019年2月8日

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矢島里佳 (やじま・りか)

株式会社和える 代表取締役

1988年東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、 “0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。テレビ東京「ガイアの夜明け」にて特集される。日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開中。

「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いで、各地の伝統工芸の職人さんたちと一緒にオリジナル商品を生み出す矢島里佳さんが、日々の暮らしを豊かにする道具を紹介しつつ、忘れられがちな日本文化の魅力を発信していきます。

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 今日は夕食を作る時間もとれないし、スーパーでパックのお寿司を買ってきた。食べ終わってからも仕事は残っている。時間はない。時間はないのだけれども、パックをあけて、ふ〜、と一息。津軽塗りの器に並び替えてみた。

 すると、どうだろう!

 疲れた気持ちが、素敵なお寿司屋さんに来たような高揚感で満たされていく。そう、これぞ有りものを美味しくする先人の智慧、お並べ。人間は、舌だけではなく目でも食べているのだ。

 お供のお醤油皿は、古代朱の器にしよう。お醤油は奥出雲の古式醤油。本物の山葵は食べきれないし、お寿司より高い…チューブ山葵を考えた人は天才だ。いくつかあるチューブ山葵の中で、一番こだわっているものにした。

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雪深い青森だからこそ生まれた「伝統の塗り」

 この赤い扇型の漆の器は、青森県で作られている津軽塗りの器。知人が引越しをするので器を整理するということになり、安く譲ってもらった。

 津軽塗りの器は、塗りの工程だけで約3ヶ月かかるのだ。ご存知だろうか。驚くべき時間をかけている。何度も塗っては研いで、塗っては研いでを繰り返して、ようやく出来上がるのが津軽塗りの特徴。今の時代の感覚から考えると、こんなに時間をかけてものづくりをしようとは思わないだろう。

 しかしながら、この津軽塗りが生まれた青森の地理的条件にまで目を向けると、納得なのである。青森県はもともと雪深い。冬の時期は3ヶ月ほど雪に閉ざされていた。今でこそ、除雪車や温暖化によって雪に3ヶ月も埋もれて閉ざされることはなくなったが、当時は家から出られず仕事ができなかった。そこで生まれた、家の中でできる冬の仕事が津軽塗りだったのだ。まさに自然環境が産み出した、青森ならではの塗りなのだ。

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「時間は平等」ではない

 現代はなんでも安くて、早くて、便利!が、もてはやされがちだが、津軽塗りの器にふと目を向けると、全てが真逆だと感じる。本当にゆったりとした時間の中から生まれてくる。今の時代に、この時間感覚でのものづくりを発明することは、おそらく現代人には非常に難しいだろうと思う。今日商品を頼んだら、明日届く。こんなクイックな時間感覚で生きている現代人の私たちは、待つということがとことん苦手になっているのではないだろうか。

 お寿司を買って帰ってきて、お寿司を津軽塗りの器に移し替えて、お並べして食べる。スーパーに売っていた器のまま食べるより、食べるまでに時間はかかるが、津軽塗りの器ができる3ヶ月弱の時間を考えたら、お並べしてより美味しく食べる工夫にかける時間なんぞ、本当にわずか一瞬でしかないと感じられるようになる。結局は比較の問題であり、なんでも、すぐ!の現代人は、先人から比べたら本当に短気な民族になったものだ。

 私は津軽塗りに出逢ってからというもの、短気な現代人になりかけそうな、自分の思考を発見した時は、津軽塗りのゆったりとした時間感覚を思い出し、なんだ一瞬じゃないかと自分に言い聞かせるようになった。時間は人類が唯一平等に持つものと幼少期に教わったが、同じ1分でもまったく感じ方は違うのだから、平等ではないと感じる。短気な1分と、豊かな1分、私はたった1分でも豊かな時間にしたいなぁと、心底思うのだ。

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