食材の美味しさを引きだす魔法の鍋
プロの料理人をはじめ、料理研究家や有名ビストロの店主、お洒落なライフスタイルショップのオーナーなど、食や生活の質にこだわる人たちがこぞって使っているメイドインジャパンのキッチンウェア(調理器)がある。バーミキュラという鋳物ホーロー鍋だ。
このちょっと変わった商品名は、「バーミキュラ鋳鉄(ちゅうてつ)」という鋳物の特殊材質から名付けられた。熱伝導に優れて強度も高いバーミキュラ鋳鉄は、無水調理ができる鋳物ホーロー鍋にとって最高の材質である。無水調理鍋はフランスのル・クルーゼやストウブなど、これまで欧州の有名ブランドの独壇場であった。ところがバーミキュラは、「肉や魚、野菜の火の通り方が違う」「シンプルな料理がより美味しく感じられる」「子供が嫌いな野菜を食べるようになった」などなど、平成22年(2010)に発売以来その評判が口コミで広がり、今やあまりの人気で半年以上待たなくては購入できないという(2016年9月現在)。
それでも「バーミキュラで料理をしたいから何カ月でも待ちます」という声が後を絶たない、食材本来の美味しさを引きだす魔法の鍋。ワレワレはその人気の秘密を知りたくて、今回は名古屋へと向かったのであります。
名古屋駅から車で15分ほど西へ走ると中川区に入る。かつては東洋一の大運河と呼ばれた中川運河が流れていて、バーミキュラを造っている愛知ドビーは、中川運河にほど近い住宅地のなかにある。さぞや大きなメーカーだろうと思って訪ねると、意外にも昔ながらの町工場なのだ。
創業昭和11年(1936)。社名である繊維機械のドビー織機のメーカーとして発展を遂げたが、繊維産業の衰退と共に工業部品の下請け工場になってしまっていた。