メイドインニッポン漫遊録 「ひととき」より

2016年8月27日

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いで あつし (いで・あつし)

コラムニスト

1961年、静岡県生まれ。コピーライター、「ポパイ」編集部を経て、コラムニストに。共著に『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)など。
 

今や希少な吊り編みスウェット

ループウィラーの定番、右からLW05(税込19,440円)、LW01(税込16,200円)

 VANやボートハウスで青春をおくった世代(筆者のことです)にはトレーナーと呼んだほうが馴染み深い、スウェットシャツ。気軽に着られるカジュアルウェアの代表格でありますが、1着2万円近くするにもかかわらず、日本をはじめ海外の有名セレクトショップでも大人気のメイドインジャパンがある。袖口に「ループウィラー」とカタカナでブランド名が付いているスウェットシャツだ。

 ループウィラーのスウェットシャツが人気の秘密は、生地を作る機械にある。スウェットシャツの本場であったアメリカはもとより、今では日本でもとても珍しくなってしまった「吊り編み機」という、昔ながらの旧式の機械を使って作られているのだ。

 吊り編み機とは、昭和30年代半ばまで天竺(てんじく)素材や裏毛(うらけ)の生地生産に一般的に使われてきた機械である。その最大の特徴は、出来上がった生地の柔らかさ。繰り返し洗濯しても柔らかな着心地が失われにくい吊り編み生地は、スウェットシャツやTシャツの素材として当時汎用されていた。しかし大量生産・大量消費の時代がやってきて、吊り編み機は徐々に姿を消していったのである。

吊り編み機

 なにしろ吊り編み機で作る裏毛の生地は、なんと1時間にたったの1メートルしか編むことができない。さらに職人が常時、編み機の調整を行いながら稼働するので、まったくもって生産効率の悪いことこのうえなし。やがて多くの工場が吊り編み機の10~30倍の生産量を可能にするシンカー編み機や、最新のコンピュータ制御の編み機を導入して生産効率を上げていったのであった。

 現在、この吊り編み機が現存して稼働しているのは世界でも日本の和歌山県だけである。しかもかつては日本一のニット産業地として栄えた和歌山でも、吊り編み機がある工場は今や数えるほど。ループウィラーのスウェットシャツに使われている生地の多くは、そのうちの一社、カネキチ工業で作られている。

 そこで今回は、今や希少な吊り編み機のあるカネキチ工業を訪ねて、ワレワレは和歌山の紀三井寺まで旅して来たのであります。

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