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2019年1月29日

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土方細秩子 (ひじかた・さちこ)

ジャーナリスト

ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

 カリフォルニア州で今年1月より、FDA(米食品医薬品局)が承認する前のガンワクチンの患者への投与が始まることになった。これは米国で定められた「Right To Try(患者が治験薬を試みる権利)」という法案に基づいたもので、FDAが定めるEAP(人道的見地からの医薬品提供)の一環だ。内容としてはステージが進み、治療方法が他に見つからない患者に対し、承認前の医薬品を患者の選択により提供することが認められる、というもの。

(MarianVejcik/Gettyimages)

 米国ではこれまで前例がなかったが、エピトポエティック・リサーチ社(以下ERC)が開発中のガンワクチン、Gliovacについて、同社がカリフォルニア州の「同社が行うフェーズ2治験の条件に当てはまらない患者(当てはまらない理由としては治験対象の制限人数の上限を上回る、病状が進行しているため治験対象とならない、その他健康面の理由で条件対象外となる、などが挙げられる)に対する供与を行う」と発表した。

 Gliovacは脳腫瘍の一種で最も悪性とされるグリオブラストーマ治療の目的で開発されたワクチンで、腫瘍細胞とその溶解液を元に、治験者の免疫細胞を刺激し、ガン細胞を拒絶するシステムを作り上げるものだという。ワクチン投与はカリフォルニア大学アーバイン校の医学部付属病院で実施される。

 Right To Tryは米国だけではなく世界の複数の国で導入されている法律だ。ERCでも米国での使用に先立ち、すでにベルギー、ドイツ、コロンビア、南アフリカ、オーストラリアで実際の患者への投与を行っている。

 もちろんRight To Tryには根強い反対意見もある。米国臨床腫瘍学会(ASCO)は昨年5月、Right To Tryは患者の安全を無視するものである、という懸念を表明する声明を出した。治験薬の安全性と有効性の独立審査の過程を飛ばして患者が治験薬にアクセスすることで、患者の利益が十分に守られない可能性があるためだという。

 Right To Try法は「FDAが求める審査の第一フェーズをクリアしていること」「現在FDA承認に向けてのプロセスが続行中であること」という条件を満たす薬品についてのみ認められる。また患者は医師と医薬品メーカーとの間に免責事項などの署名を行う必要があり、患者への薬品投与はFDAへの報告義務がある。しかしこれさえクリアすれば、患者は比較的簡単に治験薬の投与を受けることができるようになる。

 一方でFDAは承認前の薬品投与について、正式の申請を行えば多くの場合認めているため、ASCOでは「Right To TryよりもFDAが承認へのプロセスを迅速に行い、薬の安全性に対する評価を確実に行うことの方が有用」とも語っている。

 しかし、カリフォルニア大学アーバイン校の医学者からは「病状の進行状況やその他の条件により治験に参加できない重篤な患者にとって、Right To Tryは治験薬にアクセスする唯一の方法になっている可能性が高い」と指摘する。FDAへの治験薬使用の正式な申請手続きは煩雑で時間がかかり、終末期の患者にとっては実際に利用できないものとなっているためだ。

 そもそも米国ではFDAとは別個に州が定めるRight To Try法がすでに41の州で承認されている。それだけ治験薬、特にガンワクチンに対して「藁にもすがる思い」で使用を求める患者が多いのだ。

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