世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年3月6日

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 2月24日、米国首都ワシントンで行われていた米中貿易協議で、米中双方は折り合いを付け、3月1日を期限に予定されていた2000億ドル相当の中国製品への10%から25%への輸入関税引き上げは、ひとまず回避された。

(aphotostory8/LuckyStep48/iStock)

 トランプ大統領は、これを受け、次のようにツイートした。

 「米国が中国との貿易協議で実質的な前進を遂げたことを、喜んで報告する。協議は、知的財産の保護、技術移転、農業、サービス、通貨及びその他多くの問題を含む重要な構造問題についてなされた。これらとても生産的な協議の結果、私は、現在3月1日に予定されていた米国の関税引き上げを延期する。双方がさらに進展できるならば、我々は、習総書記と私との首脳会談をマーラ・ラーゴで行い、協定を締結したい。米国と中国にとって、とても良い週末だった。」

 米中貿易協議で、米国側が求めていたのは、貿易不均衡の是正と、知的財産権の保護等である。もちろん、為替操作や技術移転の強要を止めさせることも、米国から中国に注文を付けただろう。が、中国のインターネット市場の問題が 交渉対象になっていないのは不思議である、と米コロンビア大学ロースクールのティム・ウー教授が、2月4日付のユーヨーク・タイムズ紙で指摘した。ウー教授は、米国のインターネット企業は、中国内で検閲されるか、市場への参入を許されないが、それは不公平で反競争的経済戦略であり、WTOのルールにも反する恐れがあり、協議の議題に乗せるべきである、と主張する。

 このウー教授の問題提起は、適切なものと言えよう。 

 インターネット企業は経済に大きな影響を与えている。中国が自国内で外国のインターネット企業を締め出し、自国のインターネット企業を優遇していることをサービス貿易における貿易障壁ととらえて改善を求めていくことは重要な問題であり、今後ますます重要になると思われる。公序良俗を守るための規制はもちろん許容されるが、包括的に外国のインターネットを「検閲」して排除することはWTO規則上、合法であるか否かは相当疑問である。 

 その上、インターネット企業におけるデータの大量収集とその利用の問題がある。中国では、既にキャッシュレスの時代が来ており、レストランから町中の小さな雑貨店での支払いまでも、スマホの電子マネーで行うことが常態化している。

 中国のインターネット企業は、中国共産党政府に求められた場合、このビッグ・データを提供していると言われている。また、監視カメラが広範囲に設置されている。ある新しい地方都市では、どこに立っても、監視カメラで捉えることができるように、カメラが縦横無尽に設置されているらしい。

 そして、中国の監視体制はもはや中国内に留まらない。2月24日付の朝日新聞は、「中国製地下鉄、米を監視?」と題する記事の中で、米国の首都ワシントンで導入しようとした中国製の地下鉄車両に埋め込まれた監視装置やセンサーによって中国がスパイ活動をしかねないとの懸念が米国内で出てきて、同車両の導入に待ったがかかったと報じた。

 インターネットを通じて人々は大きな便利さを享受したが、同時に監視社会が成立してくる危険にも直面しているのではないかと思われる。中国の共産党独裁の監視社会ができてくるのを防ぐためには、中国人に中国のインターネット企業以外の企業を利用する機会を与えることが重要であると思われる。 

 今のトランプ政権は、製造業、農業、技術移転という過去の分野に焦点を当てているが、未来に大きくなる分野への関心が弱いとの指摘があるが、その通りであろう。 

 米中通商協議で、この問題は取り上げられるべきであろう。
 

  
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