西山隆行が読み解くアメリカ社会

2019年3月1日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 現在、民主党内では、左派的な立場を取る人々の発言力が増大している。とりわけ、2020年大統領選挙への立候補を表明している、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン、カーマラ・ハリスらの発言に注目が集まっている。それに加えて注目を集めているのが、ニューヨーク選出の連邦下院議員、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスである。

 彼女は、2016年大統領選挙の際に民主社会主義者を自称するサンダースの選挙運動に関わった人物であり、11期目の当選を目指していた民主党主流派の重鎮ジョセフ・クローリーを予備選挙で破った。彼女は2018年中間選挙の際に、移民関税執行局(ICE)による不法移民取り締まりの在り方への疑問が強まっていたのを受けてICE廃止を公約に掲げるなど現実離れした選挙公約を掲げていた。だが、中南米系の女性で、史上最年少の下院議員、自称民主社会主義者という特徴もあって、彼女の発言はメディアでも頻繁に取り上げられている。

「グリーン・ニューディール法案」を発表したオカシオ・コルテス米下院議員(写真:AFP/アフロ)

 この論考では、現在、民主党左派の中で注目を集めている、グリーン・ニューディール、すべての人にメディケアを(メディケア・フォー・オール)、富裕層に対する増税という3つの考え方を取り上げて解説することにしたい。

「グリーン・ニューディール」3つの点に注目

 グリーン・ニューディールとは、国内電源を風力発電や太陽光発電のような二酸化炭素排出量ゼロの再生可能エネルギーに100%切り替えることや、交通手段の近代化(全米規模での鉄道網の構築)、製造業や農業での二酸化炭素排出量削減、住宅や建物のグリーンビルディング化などを今後10年間で実現し、環境保護と経済成長を両立させようと試みるものである。オカシオ=コルテスとエド・マーキー上院議員が決議案を提出し、70名以上の民主党下院議員と12名の上院議員が賛意を示している。その中には、2020年大統領選挙への出馬を表明しているウォーレン、ハリス、カーステン・ギリブランド、コリー・ブッカーが含まれる。

 グリーン・ニューディールをめぐる状況を理解するうえでは、少なくとも三つの点に注目する必要がある。

 第一に、グリーン・ニューディールという表現が、そもそも注目に値する。これは、大恐慌に対してフランクリン・ローズヴェルト政権が実施したニューディールから名前をとったものである。日本では、オバマ政権期に環境活動家のヴァン・ジョーンズが著した本が『グリーン・ニューディール』というタイトルで翻訳・出版されたこともあり、アメリカで10年近く用いられている表現だと思う人もいるかもしれない。

 だが、実は、このタイトルの訳はアメリカ社会の実態を考える上では誤解を招く翻訳である。というのは、ジョーンズは、グリーン・ジョブやグリーン・エコノミーという表現は使ったものの、グリーン・ニューディールという表現は使わなかったからである。同書が発売された2009年当時、ニューディールは大きな政府を象徴する表現だとして、アメリカ国内では民主党支持者の間でさえ評判が悪かった(さらに言えば、リベラルという表現をも避ける政治家もいた)。だが、今日では、ニューディールという表現にはむしろ肯定的な意味合いが含まれているという判断から、グリーン・ニューディールという表現が使われるようになっている。これは大きな変化である。

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