西山隆行が読み解くアメリカ社会

2019年3月1日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

実現可能性に対する疑問も

 第二に、グリーン・ニューディールは、様々な職を提供することや投資を喚起するなど、環境政策の枠を超えて位置づけられているのが特徴である。これも、前編(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15502)で指摘したように、近年のアメリカで顕在化している貧富の格差を克服しようとする試みの一環と位置付けることができるだろう。

 そして第三に、グリーン・ニューディールの決議案については、オカシオ=コルテス陣営が甚大なミスを犯した点にも注目する必要がある。オカシオ=コルテスのスタッフは、意図的にか誤ってかは不明だが、決議案賛同者の承認を得ていない段階の文章を「よくある質問」という形でまとめたものをウェブ上に発表してしまった。その中には、例えば、「グリーン・ニューディールは、全ての人——その中には働きたくない人をも含む——に対して、経済的な補償を提供することを目指す」とか、「環境問題への対応のため原子力発電を廃止する」というような論争的な主張が含まれていた。

 先に述べたように、この決議案には、2020年大統領選挙の候補となることを目指している人々も賛意を示している。彼らにとっては、このような論争的な内容のメッセージを出してしまうのは大問題である。実際、オカシオ=コルテスは、最終的に出された決議案にのみ注目すべきであって、誤って発表してしまった文章は忘れてほしいと釈明しているが、民主党の政治家の多くは強い不満を示している。

 また、オバマ政権期にエネルギー長官を務めたアーネスト・モニスは、グリーン・ニューディールのような現実離れした考えを提唱するのは逆効果だと批判している。環境問題の改善のためには、二大政党で協力可能な点について妥協を積み重ねていくことが必要であるにもかかわらず、このように実現可能性が低く、過激な立場をとってしまえば、異なる立場の人々の反発を招いて協力が困難になるからである。実際、共和党陣営は、この文章を取り上げて、民主党リベラル派の考えの過激さを繰り返し指摘している。例えば、ある人物はワシントン・ポストへの投稿で、オカシオ=コルテスらの考えは、旧ソ連の5ヵ年計画よりも過激だと論じている。

 グリーン・ニューディールは、その実現可能性に疑問があるだけでなく、費用の見積もりについても十分になされていないと指摘されている。トランプ大統領は、グリーン・ニューディールの考え方を、悪い点数を取った高校生のタームペーパーだと表現し、一笑に付している。

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