西山隆行が読み解くアメリカ社会

2019年1月23日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 昨年末に始まった連邦政府の一時閉鎖は1か月以上続いており、問題解決の目途は未だたっていない。各種世論調査では、一時閉鎖の責任は民主党ではなくトランプ大統領と共和党にあるとする人々が多数を占めている。もちろん、一時閉鎖状態を好ましくないと考える連邦議会議員も多く、様々な妥協提案がなされているものの、国境の壁建設にこだわるトランプ大統領がそれを拒否する事態が続いている。

(写真:UPI/アフロ)

 連邦政府が一時閉鎖している結果、連邦政府職員の中には賃金が支払われるかどうかの見通しがないまま労働している人もいる。給与が支払われなかったために家の契約を打ち切られた職員がいるとか、正月用の特別な夕食として囚人にステーキをサーブした刑務官は給与が得られるかどうかの見通しが立っていないというようなニュースがアメリカのみならず世界で報道された。

共和党内にトランプに批判的な立場をとる人はほとんどいない

 興味深いのは、一時閉鎖の原因はトランプにあると多くの人によって考えられているにもかかわらず、トランプを諌めようとする動きが共和党内で活発になっていないことである。もちろん、先月の論考(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14898)でも記したとおり、共和党支持者の間では政府閉鎖の原因が民主党にあると考える人が一定程度存在することを考えれば理解できないわけではないが、無党派層の動向を考えるならば、トランプに再考を迫る動きを党主流派が示してもおかしくない。政府閉鎖以外にも、トランプ大統領は連邦政界の有力者の反対を押し切って行動することが多くなっているが、それを十分に抑制しようとする試みが著しく弱いのである。

 トランプ政権成立前、共和党内にも、トランプに対して批判的な立場をとる人は一定程度存在した。だが、政権成立後は鳴りを潜め、トランプに批判的な態度をとるのはアリゾナ州選出のジョン・マケイン上院議員ら一部に限られた(マケインは昨年死亡した)。昨年の中間選挙でユタ州選出の上院議員となった、2012年大統領選挙の共和党候補であるミット・ロムニーもトランプに批判的な発言をするようになっている。だが、昨年11月の論考(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14458)でも指摘したとおり、共和党は中間選挙でトランプ人気に頼らねばならなかったこともあって、トランプに批判的な立場をとる人はほとんどいない。共和党はトランプに乗っ取られたような状態となっている。

「大統領の権限を抑制することが必要」という認識

 このように、大統領が独断的に行動し続けるという事態は、これまでのアメリカ史上、必ずしも想定されてこなかった。それは一つには、アメリカでは、大統領の権限を抑制することが必要だという認識が一般的であり、合衆国憲法も連邦議会や裁判所などによって大統領権限を制約するという前提で制定されているからである。それに加えて重要なのは、大統領自身が独断的な行動をとるべきではないという規範を一定程度持ってきたからでもある。

 合衆国憲法制定時、建国者たちは立法機構(連邦議会)、行政機構(大統領)、司法機構(裁判所)を分立させ、それぞれに権限を分有させるという三権分立の考え方を制度化した。その際には、一方では、立法部門に権限を与えすぎると多数の専制状態になるという危惧があった(例えば、当時のアメリカ国民の大半は貧しかったので、借金を帳消しにする法律が作られたりするのではないかと危惧された)。そのため、いわば民主主義の過剰を抑制するために設立されたのが大統領職だが、その大統領が巨大な権力を持ち、ヨーロッパにおける君主のような存在となることも避けたいと考えられた。

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