西山隆行が読み解くアメリカ社会

2019年3月1日

»著者プロフィール
閉じる

西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 参考までに連邦所得税について考えるならば、最高税率は1917年以前は7%だったのが、同年、ウッドロウ・ウィルソン大統領が67%に引き上げた。その年は、アメリカが第一次世界大戦に参戦した年であった。その後、1919年まで最高税率は73%に引き上げられた。1920年代になると、カルヴァン・クーリッジ大統領の下で最高税率は25%に引き下げられたが、1932年、ローズベルト大統領の下で再び63%に引き上げられた。そして、第二次世界大戦中の1942年には、その税率は88%となった。そして、ハリー・トルーマン政権期、そして、共和党のドワイト・アイゼンハワー政権期に、最高税率は90%以上に達した。だが、ジョン・F・ケネディ大統領は、それを70%に引き下げた。コルテスが主張する70%という水準は、この時代とほぼ同程度である。だが、ロナルド・レーガン政権期の1981年に50%に、そして、1988年には28%にまで引き下げられたのである。

 今日のアメリカは、世界の国々の中で所得税の最高税率は39位と必ずしも高くない。そして、オカシオ=コルテスが主張するような70%の最高税率というのは、アメリカの歴史上、課されたことのある税率である。だが、以前と今日では明らかに時代状況が異なっている。今日、イギリスの最高税率は45%であり、税金が高いことで知られるスウェーデンやデンマークでも、最高税率はそれぞれ56%、57%である。70%という最高税率は、かつてのアメリカであればありえたのかもしれないが、今日の世界では、ありえない高水準である。

 なお、近年、民主党リベラル派が高所得者に対する増税を提唱しているのは、富の不平等が顕著になっているからである。これまでの歴史上、富の不平等が大問題になった事は何度もある。だが、富の不平等があるからといって高額納税者への増税が政治的に支持されるとは限らない。実際、ヨーロッパとアメリカで過去100年間で高額納税者に対する増税が実現した条件を調査した研究によれば、それが可能になったのは、高額納税者が社会に対して適切な貢献を行っていないと考えられた場合のみである。

 ここでいう貢献とは経済的なものではない。その研究によれば、高額納税者に対する大幅な増税が達成されたのは戦時下などの国家的危機においてのみである。戦時下には、低所得者層は徴兵されて戦争に行ったが、高額納税者の子孫は徴兵を回避したという認識がその背景にあった。だが、今日のアメリカでは、そもそも徴兵が行われていない。また、近年ではドローンなどの発達により、戦争に際しても人間が直接的に戦闘行為に関与する必要性は低下している。このような状況を考えると、高額納税者に対する増税という考え方は、表面的には賛同する声が強くなったとしても、実現する可能性は低いというのがその研究の結論である。

穏健な有権者の反発を招く危険性

 このように、今日の民主党では左派の発言力が大幅に増大するとともに、その主張がメディア等でも積極的に取り上げられている。だが、それらの実現可能性は低そうであり、むしろ穏健な有権者の反発を招く危険性が高い。

 2020年大統領選挙に向けての動きが以後活発化すると思われるが、この状況は民主党にとっては両刃の剣である。選挙戦を活性化するためには左派の運動の高まりが重要になるが、それがあまりに活発になりすぎると、穏健な有権者の支持が低下して、共和党や第三党候補を利することになりかねないからである。

 オバマ政権期に副大統領を務めたジョー・バイデンは、2020年大統領選挙に立候補するか否かを近いうちに決断すると報じられている。また、元ニューヨーク市長のマイク・ブルームバーグも、民主党からの大統領選挙への出馬を念頭に置いて組織固めを行っている。今後の民主党の方向性に注目する必要があるといえよう。
 

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る