書評でもなく、要約でもない、書籍のダイジェスト版を週4日メールで送ってきてくれる『SERENDIP』というサービスがある。ここにきて急速にユーザー数が増えているという。料金は年間で3万円、月にすれば2500円になる。このサービスを手掛ける、情報工場社長の藤井徳久さんに話を聞いた。
藤井さんは、新卒後システムエンジニアとなり、2年務めた後退職し、 いったん大学院に入って、情報工場を起業した。
実際に創業したのは2005年にさかのぼる。「当初は、3年で今くらいの規模になることを想定していたのですが、想定外でした」と藤井さんは笑う。それでも、14年間も事業を継続してきたわけだから大したものである。
ダイジェストする出版社にも、もちろん許可をとっている。当初は断られることもあったが、むしろダイジェストしてもらったほうが本が売れるということから、このところは、献本の数が増え続けているという。
情報収集や話題づくりなど、流行りの本の中身を知っておきたいというビジネスパーソンは少なくい。そのため、ビジネスパーソンにターゲットを絞った形で、ビジネス書の要約を提供するサービスもある。
情報工場のサービスは「書評でも、要約でもなく、ダイジェスト」だという。書評は確かに評者の主観が入るので、ちょっと違う。では、要約とダイジェストの違いは何か。藤井さんからの説明を聞いてみたが、いまいち消化できなかったので、後からダイジェストのサンプルを読ませてもらって腑に落ちた。
要約というのは、本の「要(かなめ)=ポイント」を端的に示すのに対して、ダイジェストというのは、もっと幅広く、しかも著者の表現をそのまま使って、「読みどころ」が書かれている、という印象だ。
時短的な発想だと、要するに「何が言いたいのか?」「何を言っているのか?」かが主眼になってしまうが、藤井さんの狙いはそこにはない。では何か。「SERENDIP(セレンディップ)」だという。何かといえば、「偶然の出会い」である。それによって、気づきを与えてもらえるというわけだ。
例えば、書店に行ったとしても、幅広い分野の読書を趣味にでもしていない限り、関心のない棚までわざわざ見に行かないし、アマゾンのようなサイトでは、リコメンドはしてくれるものの、それも購買や閲覧履歴からなされるものなので、個々のユーザーの守備範囲に限られたものになってしまう。
また、「フィルターバブル」というものがあって、検索エンジンやSNSのアルゴリズムは、ユーザーの履歴から、その人が好みそうな結果を表示する。その精度が上がるほど、新しい偶然の発見ということを起こりづらくなる。
情報工場では、出版の元編集長、事業部長、外資系企業経験者から、IPO経験者など、年代、業種を横断した様々なバックグラウンドを持つ人で、「SERENDIP編集部」を組織している。そして、サービス利用者を含めた第一線で活躍する「ビジネスパーソン」、「出版業界」という3つの視点から選書会議を行っている。
さらに強みとしているのが、日本で未刊行の英語、ドイツ語、ポルトガル語、中国語、タイ語、インドネシア語の書籍も日本語のダイジェストにして週に1回配信していることだ。