足立倫行のプレミアムエッセイ

2017年6月3日

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足立倫行 (あだち・のりゆき)

ノンフィクションライター

早大政経学部中退後、週刊誌記者などを経てノンフィクション作家に。近著に『血脈の日本古代史』(ベスト新書)『倭人伝、古事記の正体』(朝日新書)。

 京都で法事があったので、久し振りに妻と京都市内に1泊した。

 法事の後は駅前のホテルで会食をして夕方に解散なので、日帰りでもよかったのだが、妻が「面白いところがあるから泊まろうよ」と前から言っていたのだ。

 妻は京都出身である。

 東山区で小売り店を営んでいた両親はすでに他界し、借家だった実家も今は空き家だが、大学卒業まで京都に暮らしていたので古い思い出は多い。そんな、自称「京都にウルサイ人」が、「面白い宿屋」と言うのだ。

 それが民家を改造したゲストハウスだった。

(iStock)

 妻はこの1年、あれこれの用事で3回ほど京都に帰っていた。親戚の家はあるが世話をかけたくない。かといって巨大観光地のホテル代は高すぎる。そこで利用し始めたのがネットで探したゲストハウスだ。

 お茶屋を改造したもの、町家を改造したものなどいろいろあり、「どこも昭和レトロの感じで懐かしい」。部屋を衝立で区切ったり、2段ベットにしたドミトリー形式なら、1人素泊まり2000円前後から3000円と超格安(少し割高の2人用個室もある)。しかも、宿泊客との意外な出会いがあるらしい。

 「中国人とは挨拶程度だったけど、甘い物好きのフィリピン人とは英語で話せたよ。日本人もけっこう多彩なの。ある若い女性は、プチ家出したらしくて“そろそろ1週間だから、家に帰らなくちゃ”と言ってたし、1人で全国お寺巡りをしている小母さんとか、雪の日に泊まった時は、“私、公立校の入試担当の職員なんですが、雪で明朝遅刻するのは絶対に許されないから今夜学校のそばにあるここに泊まるんです”って告げられたり」

 ビジネスホテルではまずない邂逅なのだ。

 こうして出会いを「面白い!」と思う感覚が、私たち夫婦に共通していた。

 そこで今回は、妻が以前泊まって楽しい思いをしたという京都水族館近くの町家風のゲストハウスを選んだのだった。

 ガラス格子の表戸を開けると、裏庭まで土間の続く通り庭があり、片側にははしり(流し)とおくどさん(かまど)の跡がある。まさに、京町家そのものである。

 玄関を入って右手の6畳間が共有スペース。和テーブルに座布団、壁際に本棚や宿泊者共有の冷蔵庫があるが、TVは置いていない。

 共有スペースの裏手が受け付けで、そこで鍵をもらい、奥の木の階段を昇り2階へ。

 2階は6人用のドミトリーと個室2部屋だ。我々は個室の1部屋(2人で7000円)に入った。ベッドだけでほぼいっぱいの4畳半だが、中2階なので天井が低い。

 表から見ると丈低い漆喰壁に何本ものスリットが入った窓が明かり採りの窓で、「厨子二階の虫籠(むしこ)窓」と呼ぶらしい。

 この虫籠窓がベッドの枕元にあるのがよかった。かつての妻の実家は三条通りに面した通常の二階家だったが、中二階の虫籠窓は外から覗きにくく内から外がよく見える。枕元だと、寝そべりながら外行く人々を観察できる。

 戦乱に明け暮れた京都人風にシタタカで、そこがイイ。

 風呂は、徒歩15分の距離に「昔風の銭湯があります」というので、そこへ行った。

 暖簾を潜って、番台の小母さんに声をかけ、籠の中に脱いだ衣服を入れる。

 タイル貼りの床が関東よりずっと高いこと、洗面台の棚が低いこと、備えつけでなく持参の石鹸、シャンプーを使うことなど、30数年前に子どもたちを連れて妻の実家近くの銭湯に通っていた頃と、変わりなかった。

 出てきた妻に聞くと、女湯も同様とのこと。

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