足立倫行のプレミアムエッセイ

2017年3月5日

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 桃の花の咲く3月は卒業式の季節である。

 ただし私の場合、父親の仕事の影響で転校が多く、入学式を体験した学校ですんなりと卒業式を迎えたことは1度もない。

 小学校は3つ替り、卒業したのは6年生の1年間しか通わなかった学校だ。中学校は2つだが、2つ目の学校には3年生の3学期のみしか通っていない。クラス全員の名前をようやく覚えた頃にサヨウナラである。

 なので、高校ぐらいは何とか入学した同じ学校を卒業したいと願っていた。

(iStock)
 

 ところが、神奈川県の高校に入学したのに、3年生に進学する段階で、長崎県に引っ越すことになり、(編入試験を受け)佐世保市の県立高校に転校となった。しかも、9月に突然父に辞令が下り、「年内に広島県呉市に転居する」と言う。最終学年の受験生だというのに、8カ月で再度の引っ越しである。

 さすがにこの時は、呉市やその周辺で私を受け入れてくれる高校はなかった。大学受験まで2カ月弱しか通学期間がないのだから、当然と言えば当然の判断である。

 仕方なく私は、受験のため上京するまで、家で自習することにした。幸いにも、連絡した佐世保南高校の担任は、「12月までの通学で問題ない。君にもちゃんと卒業証書を送るから、勉強に励め」と言ってくれた。

 自習生活は孤独だった。弟たちは、中学・高校に通っているため、母が買い物に出ると、呉港を見下ろす高台の小さな家にいるのは私一人だった。毎晩のようにラジオの大学受験講座を聞いたが、音波の調子が悪く、トランジスタラジオに耳を押し当て、懐中電灯でテキストを照らし、坂道を行ったり来たり。

 世間と遮断されたそんな日常だったので、上京して現実に直面した時には驚愕した。

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