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2019年5月4日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

 日本では街の本屋が次々と消えていく中にあって、米国でも同様だったが、ここに来て独立系と呼ばれる本屋が徐々に増え、ニューヨークでもこの数年、新しく本屋がいくつも誕生している。便利に注文できて宅配してくれることから、大手通販アマゾンを通して本を買うのが当たり前のなか、マンハッタンで「ブックカルチャー」を運営するクリス・デブリン代表(58歳)に、本屋を出店する狙いなどについて聞いた。

クリス・デブリン氏

 セントラルパークの南西の81丁目とコロンバスサークルにある2階建ての3号店に入ると、本はジャンル別に並べられ文房具などの小物雑貨もあった。こじんまりとした書店で地下売り場もあり、その一角が小さな子供が遊べるようなスペースが設けられていた。

 ここはこの地域の人が気軽に立ち寄ってもらうコミュニティスペースになっていた。本を買わなくても構わないようで、本の好きな地域の人がここで交流してもらえれば良いという。まさにアットホームな街の本屋さんという感じがした。そこにはコミュニティを大事にしようという雰囲気があった。

1997年に1号店

Q どうして本屋を始めたのか?

デブリン氏 もともと1980年代に大学の近くの個人商店の本屋で働いていた。そして、97年にコロンビア大学の近くに本屋を開業したのが始まりで、教科書の販売が中心だった。1980~90年代には大学の近くの本屋でどういう本が売れるのかが分かっていた。

 2010年には、そこから2ブロック離れた場所に大衆向けの2号店を出した。大学は中退して、本屋のプロではなかったが、自分なりのやり方を追求してみることにした。そこで、自分で会社を作り、コミュニティの中で本屋を大きくしてみたくなった。

ブックカルチャーの店内

Q 「ブックカルチャー」の目指すものとは

デブリン氏 いま本について新しい流れがある。これまで本を読むことから遠ざかっていた人が、本を読むことで家族や子供を訓練しようとしている。最近は、ウェブだけではなく、本を通して新しい提案がされるようになり、これが成功して皆に支持されてきている。本そのものが信頼されるようになっている。だから、本を見つけることができる場所(本屋)を提供し続けることが重要だと思う。それをコミュニティに供給する役割を担いたいので、この地域の人の心の中に「ブックカルチャー」を常に意識させたい。

生活感のある風景

Q そうは言っても本屋は減り続けている

デブリン氏 日本を含めて小さな本屋が世界中でなくなっているのは事実だ。人々はオンラインで何でも買っている。この現象は都市でも田舎でもあらゆるところで起きている。かつては野菜の買い物をするときは店員と会話をしたが、いまはそういうこともなくなった。

 私たちが作りたいのは、そうした会話がある生活感のある街の風景を取り戻したいことだ。私のビジネスで長期的な視点でのポイントは、単にお金持ちになることではなく、得られた富をコミュニティで共有し、育ててくれた親や学校に恩返しすることだと思う。

 いま興味深いことに、相反する動きがある。一つは人々が何でもネットで買うようになっている。この結果、人々の交流の機会が減った。人は外に出なくなった。一方で、1960年代から70年代にかけて都市部から郊外に人が移った。しかし、若い人を中心に多くの人が都心に戻ってきている。これはロサンゼルスでもニューヨークでも同じだ。

 皆が都心のカフェやレストランで顔を合わせて話すライフスタイルを求めるようになって来ているのは、良いことだ。こうしたことは、よく分からないが、人間が離れたり、集まったりすることには、何かしらのバランスがあるのかもしれない。

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