西山隆行が読み解くアメリカ社会

2019年4月26日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 4月25日、オバマ政権期の副大統領で民主党の重鎮であるジョー・バイデンが、2020年大統領選挙に向けての党の指名争いへの参加を表明した。出馬宣言をしたビデオでバイデンは、2017年にヴァージニア州で発生した白人至上主義者らの衝突事件に触れ、発生当初に人種差別を明確に非難しなかったトランプ大統領を批判するとともに、アメリカの基本的理念を守ることの重要性を強調している。

2020年大統領選挙に向けての民主党の指名争いへの参加を表明したジョー・バイデン氏(写真:AP/アフロ)

 バイデンは1972年に上院議員に当選した後、司法委員長や外交委員長を歴任、1988年と2008年の大統領選挙に際しても名乗りを上げたことがある(2016年選挙の際も出馬を検討したが、息子が死亡したため中止した)。副大統領の経験もあるため、大統領になるための準備を全く要さない人物と評されており、出馬宣言をしていない段階でも世論調査で一位の支持を得ていた。なお、二位の支持を得ているのは、民主社会主義者を自称しているバーニー・サンダースである。

 現在、民主党にとっての最重要課題は2020年大統領選挙でトランプの再選を阻むことだが、そのために採るべき戦略については議論が分かれている。1つの立場は、2016年選挙の際のトランプと同じように、時に過激な主張をしてでも有権者の関心を活性化し、その支持を得ようとするものである。この立場を代表するのがサンダースである。他方、そのような方法では穏健な有権者の支持を得ることができないとして、超党派的な協力関係を結ぶこともできる穏健派を擁立することが重要だとする立場がある。そのような人々の間で待望されていた候補がバイデンであった。

 2020年の民主党の候補者指名争いは、サンダースに代表されるリベラル派(左派)とバイデンを中心とする穏健派の争いとなることが予想されるため、本稿ではサンダースとバイデンを中心において、民主党の今後について検討してみたい。

「持てる者」となったサンダース

 前回前々回の原稿で紹介したように、最近の民主党内では民主社会主義者を自称するなど、左派寄りの立場を示す人々(リベラル派)の声が大きくなってきている。大統領候補の座を目指す人々の中でその立場を最も鮮明にしているのがサンダースであり、彼は「全ての人にメディケアを」と呼ばれる立場の中でも最も過激な形態、すなわち、民間医療保険を廃止し、すべての医療保険を国家が独占する立場を支持している。また、グリーン・ニューディール、富裕層に対する増税などの立場をとると表明している。

 だが、今日では果たしてサンダースがそのような主張をすることのできる立場にあるのかについて、疑問が呈されることもある。サンダースはアメリカの富が一部の富裕層に独占されていることを批判しているが、彼自身が今日では「持てる者」になっているからである。2016年大統領選挙に出馬した際に出版した本の印税もあり、サンダースの年収は100万ドルを超えてアメリカ国民の上位5%以内に入っている。このような状態では、サンダースが重視すると主張する労働者階級の立場に寄り添うことはできないのではないかとの疑念が呈されている。実際、サンダースは最近ではミリオネアー(百万長者)に対する発言を控えるようになったと批判する論者もいる。

 また、2016年と2020年ではサンダースを取り巻く状況が変化している。2016年の予備選挙では、クリントンが圧倒的な強さを誇るフロントランナーであり、サンダースはそれを批判する立場だった。人々の批判はクリントンに集中し、サンダースの発言や行動に多少の矛盾があっても大目に見られた。だが今回は、サンダースはトップランナーの1人であり、サンダースの発言に対する吟味も厳しいものになるだろう。

 実は、サンダースはジェンダーや移民に関して過去に耳を疑いたくなるような発言もしている。サンダースのみならず民主党リベラル派は、トランプ大統領のあらゆることを徹底的に批判する。だが、トランプの行動や発言を批判するならば、仮に民主党の政治家が類似の行動や発言をした過去があれば言行不一致のそしりを免れない。そのため、民主党は不適切発言者に厳格な処分を課さねばならなくなる。厳格な批判が自らに跳ね返ってくる可能性があるのである。

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