Washington Files

2019年4月29日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 「自分の身の潔白は証明された。捜査は魔女狩りだった」

 モラー特別検察官報告書による告発を逃れ意気揚々のトランプ大統領に対し、今度は、実業家として活躍した当時の不明朗な外国資金、とくに巨額のロシア・マネーの流れを究明する米議会の動きが本格化してきた。

 米下院の金融サービス委員会(マクシン・ウォーターズ委員長)および情報活動委員会(アダム・シフ委員長)は今月15日までに、トランプ不動産関連事業の総本山「トランプ・オーガニゼーション」(本部ニューヨーク)と深いかかわりのあったドイツ銀行のほか、JPモーガン・チェイス、バンク・オブ・アメリカ、シティ・グループなど大手数行に対し、トランプ氏の過去のロシア関係金融取引について徹底的にメスを入れるため、関連書類の提出命令を出した。

全米ライフル協会の年次総会に出席したトランプ大統領(AP/AFLO)

 とくに欧州最大手のドイツ銀行はソ連崩壊以来、ロシアおよび東欧諸国との取引拡大に乗り出し、プーチン政権人脈とも緊密な関係を維持する一方、トランプ氏の不動産投資事業に対しても積極支援を行ってきたことで知られる。

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、ドイツ銀行の「トランプ・オーガニゼーション」に対する過去の融資総額は20億ドル(約2100億円)以上に達し、トランプ氏は現在に至るまで、同行に3億ドルの借金を残したままだという。

 トランプ氏が2016年1月大統領就任直前まで取り組んでいたロシア国内最大規模の「トランプ・タワー・モスクワ」建築計画立案の際にも、資金協力を仰いでいたのがドイツ銀行だった。

 こうしたことから、ウォーターズ金融サービス委員長は、書類提出命令とは別に、去る4月12日、トランプ氏の不明朗な“ロシア金脈”に焦点を当てた最初の公聴会を開催、関連各銀行の頭取クラスが喚問された。

 冒頭、同委員長は声明を読み上げ「ドイツ銀行はとくに、プーチン側近たちや犯罪グループになり替わりロシアからの違法資金流出を手助けしてきたといわれてきただけでなく、最近でもいくつかの銀行が疑問の多い金融取引に関与してきたとの新たな情報がある。違法性が疑われる目的のためにわが国の金融システムを利用しているとすれば、きわめて憂慮すべき問題だ」と警告した。

 これに対し、喚問された各銀行の経営幹部たちは「当該委員会からの指摘を受け、実際にロシアからのマネー・ローンダリング(資金洗浄)があったかどうか調査中」「進行中の内部調査についてはコメントを差し控えたい」などと慎重な答弁に終始した。

 ロシアとの関係が最も深いといわれるドイツ銀行幹部は、公聴会出席を拒否したが、同行スポークスマンは談話を発表「当行は米下院委員会と生産的な対話を行ってきている。今後も法的な義務に沿って、正当な権限に依拠したもろもろの調査に対しては適宜情報を提供していく」と述べた。

 ドイツ銀行関連では過去に、モスクワ支店の行員グループが「数10億ドル相当」のルーブルをロシアから違法にアメリカ、イギリスに流出させたことが発覚、米英両国の金融当局から数千万ドルにも上る罰金を科せられたことなどが明るみに出ている。

 こうしたことから、米議会調査委員会としては、ロシアからの資金洗浄のうち、トランプ氏の不動産投資事業に資金が具体的にどれだけの規模で回っていたか、誰が直接かかわっていたか、などの点についても解明していきたい考えだ。

 これまで、事業家としてのトランプ氏については、さまざまな評価がある中で、ひとつだけはっきりしていることがある。それは、過去数十年にわたる事業・不動産投資は成功例より失敗例が多く、資金繰りに苦慮していた事実だ。

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