Washington Files

2019年5月13日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 今後の対中関係を史上初の「非白人国との対決」ととらえ、“文明の衝突”に見立てた米国務省高官の発言が、内外で大きな波紋を広げている。

 トランプ政権下の長期的中国戦略の一環と受け取られ、中国メディアもただちに「中国および中国文明に対する敵意を扇動するもの」と激しく反論し始めた。

 騒ぎの発端は、アメリカの中長期的外交政策を立案、国務長官に具申する同省政策立案局局長(Director of Policy Planning)のキロン・スキナー女史が先月29日、ワシントン市内で開催された保守系の安全保障セミナーに出席した際の基調講演だった。

(ANNECORDON/gettyimages)

 最初に報道したワシントン・エグザミナー紙電子版によると、スキナー局長は、中国に対するトランプ政権の見解について、要旨以下のように述べた。

 「2017年から2018年にかけて大統領補佐官をつとめたマクマスター元陸軍大将が、ロシアおよび中国を相手にした大競争時代に備えるアメリカの国家戦略の必要性を訴えたことは評価できる。しかし、中露両国はわが国にとって対等なライバルではなく、ロシアは中国に比較してグローバル競争の中のたんなる残存者に過ぎない」

 「米ソ冷戦時代、われわれの戦いはいわば西側家族間の争い(a fight within the Western family)のようなものだった。しかし、今後アメリカは史上初めて、白人国家ではない相手(中国)との偉大なる対決に備えていく」

 「中国はわれわれにとって、長期にわたり民主主義に立ちはだかる根本的脅威である。中国は経済的にもイデオロギー的にもわれわれのライバルであるのみか、数十年前までは予想もしなかったグローバル覇権国とみることができる」

 「米中関係にとって、貿易摩擦が唯一の問題ではない。長い目で見ると、貿易は中国との最大の問題ではなくなるだろう。冷戦時代にジョージ・ケナンが当時匿名の『X書簡』論文で対ソ封じ込めを提唱した例に倣い、米国務省は現在、中国を念頭に置いた『X書簡』のような深遠で広範囲にまたがる対中取り組みについて検討中である」

 これらの発言の中で最も物議の対象になったのが、アメリカが今後、最大のライバルとしての中国の存在を重視する理由として「非白人国家」という人種上の違いに言及した点であることはいうまでもない。

 これは明らかに、故サミュエル・ハンティントン米ハーバード大学教授が1993年、季刊誌「フォーリン・アフェアーズ」に発表した大論文の中で、東西冷戦後の世界が西洋文明対非西洋文明に収れんされていくことを予言した「文明の衝突」論の延長線上にある指摘であり、スキナー局長も質疑応答の中で、自らが提起した米中対立論がハンティントン博士の主張に沿ったものであることを認めた。

 しかし、ワシントン・エグザミナーでこの発言が報道されると、21世紀の米中関係を人種偏見に満ちた「文明間の衝突」的視点で論じることに対し、間髪を入れず批判や反論が米マスコミで渦巻き始めた。

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