WEDGE REPORT

2019年5月29日

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Wedge編集部 濱崎陽平 吉田哲

 生涯現役社会の実現に向け、国は企業に65歳までの雇用確保を義務付けている。しかし、シニア社員が新たな挑戦を避けたり、惰性で仕事をしたりすると、企業にとって負担になる。シニア人材を貴重な「人的資源」として活用できるかが、企業にとって喫緊の課題であり、経営戦略の重要テーマとなっている。

(PLANET FLEM/ GETTYIMAGES)

 ソニーでは、テレビの設計開発をしながらオーディオ部門の企画業務を行うなど、労働時間の1~2割を本業とは別の部門で「副業」することができる公募制度「キャリアプラス」を2015年から導入した。すでに100人近くの社員がこの制度を利用している。

 大塚康・人事センターEC人事部統括部長は、「ベテランを活用した商品開発や事業の円滑な運営も狙いにしている」と語る。最新技術が世に出たり、新たな発想が若手社員から出たりしても、事業化へと進めるノウハウや能力を持つ社員が同じ部署にいないとビジネスの種を育てることが難しい。このような場合にキャリアプラス制度で公募を行うが、実績や能力のある他部署のベテランが手を挙げれば、プロジェクトに携わることができる。

 この制度の対象はメインのエレクトロニクス事業だけでなく、ゲームや映画・音楽、金融などグループ横断的に導入されており、ソニーの強みを生かそうとしている。実際エレクトロニクス部門で立ち上がったプロジェクトがグループ内の音楽部門で成就したケースもあったという。

 ソニーは2000年代初頭から、液晶テレビ事業の苦戦など、経営不振に陥り、事業再編や構造改革を断行。15年から人事制度の見直しも進めた。ここで課題となったのがバブル期に入社したベテラン社員の意識改革だった。当時、社員の平均年齢はすでに40歳を超えており、50代に突入しようとする社員も多くいた。事業領域の見直しなどにより会社の成長期と比べて「社員が新たなチャレンジをする機会が減りつつあった」と大塚氏が振り返る。

 こうした事態を打開するため、50歳以上の社員が自らキャリアを築く「キャリア・カンバス・プログラム」を17年5月から導入。同プログラムには、「キャリアリンク」と呼ばれる、社員が自らの職歴を登録しておき、それを見たマネジメント層がスカウトする制度もある。人事部や社員本人が気づいていない能力や経験を現場のマネジメント層が見いだし、引き出すことが狙いだという。これまで100人を超える社員が登録し、そのうちの2~3割が実際にグループ内で異動している。「社員個人に自らのマーケットバリューを知ってもらう良いきっかけになるといい」(大塚氏)と期待する。

 さらに、キャリア形成を考えさせる研修も新たに導入。研修はワークショップ型で、50~53歳が受けるものと57歳のものの2種類設ける。研修を受けた後も、キャリアコンサルタントの国家資格を取得した管理職経験者らがメンターとしてつきアドバイスを送る。残り人生のキャリア形成を考えるきっかけを与え、キャリアプラスなど新制度の活用も促す。

 大塚氏は「まずは自主性のある社員が増え、周りを見て『自分もやらなきゃ』と思う人が自然に広がっていくのが理想的」と話す。

 こうしたシニアの能力を引き出す人事制度改革は、企業変革の種にもなると専門家は指摘する。早稲田大学ビジネススクールの竹内規彦教授は「イノベーションは特異な人が共存することで起きる。若者には俊敏性や体力などがある一方、シニアは圧倒的な経験と知識がある。現場がニーズを洗い出してマッチングすれば、活性化される」と話す。「企業はシニアを事務的に配置するのではなく、イノベーティブな組織を作るための起爆剤ととらえる必要がある」と強調する。

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