パチンコから生まれた
フリーズしないマイコン


Wedge編集部

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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重要な書類を作成しているところに、突然パソコンが動かなくなり(フリーズ状態)、「一からやり直し」という経験をしたことがある人は少なくないだろう。電子部品の設計製造を手がけるエルイーテック(東京都墨田区)は、フリーズしない小型のコンピュータの開発に成功した。

 現在、日常で使われているほとんどの電子機器には、マイクロコンピュータ(マイコン)が組み込まれている。マイコンとは、いわば電子機器を制御するための「頭脳」である。だが、この「頭脳」も能力を超える作業が与えられたり、電気ショックを加えられたりすると、“気絶”してフリーズ状態となる。

 フリーズすると、リセットして、はじめからやり直す必要がある。事務用に使うパソコンなどであれば、再度入力することでやり直しができるが、人の命を預かる自動車などに使用されているマイコンではやり直しができない。

 軽量化と電子化が進んだ自動車では、ハンドルやブレーキペダルなどの各操作機器が、マイコンによって制御されている。ブレーキをかけているのに、それを制御するマイコンがフリーズして、はじめからブレーキをかけ直すとなれば、障害物の手前で止まろうにも間に合わない。

 そのため、複数のマイコンを装備したり、マイコンそのものがフリーズしないように、原因となる静電気から物理的にマイコンを守る新たな電子部品を組み込んだりしている。だが、マイコンを増やすことも、物理的に守ることも部品点数を増やし、コストアップ要因となってしまう。

“FUJIMI”と名付けられた技術

 この問題を克服したのが、エルイーテックの辰野功技術本部長だ。辰野氏は、現職の前は半導体の専門商社で勤務していた。30年ほど前、パチンコ台のメーカーにチャッカーの開閉などを制御するマイコンを納めていた。電子制御のパチンコ台が登場した当初は、パチンコ玉が発生する静電気によって、よくマイコンがフリーズし、遊技中の台であっても電源を一度落とさねばならなかった。そのため、パチンコホールとお客さんとの間でのトラブルが絶えなかった。辰野氏は、パチンコホールからの苦情に対応しているときにあることを思いついた。

 「自動的に繰り返しマイコンをリセットすれば、マイコンがフリーズしても、いちいち電源を落とす必要はないのではないか」

 この仕組みを導入したパチンコ台は、お客さんとのトラブルを減らせるということで、日本全国のパチンコ台数の過半を占めるほどの人気を博した。しかし、このままの仕組みでは、一般電子機器には応用できない。パチンコ台のように小規模の処理の場合には必要ないが、規模が大きくなると、次のリセットまでにソフトウェアの処理が終わらなくなり、機能を果たせなくなる。例えばブレーキシステムで言えば、毎回ブレーキをかける前、ペダルの踏み込みを感知するところから始まることになる。

 そこで自動的に一定間隔でマイコンをリセットする前に、記録をメモリに保存するという仕組みを新たに加えた。これにより、フリーズしてもリセット直前に中断したところから再度処理を始められるようになった。この仕組みは「高レジリエンス(回復力)・マイコン技術(FUJIMIシステム)」と名付けられた。

 現在、一般の電子機器に実装できるマイコンの開発とあわせて、産業技術総合研究所と動作検証も進めている。最初は、山の頂上にある気象観測機や産業機械に使用され、製造が一般化してきた段階で、一般電子機器への使用が進むとみられる。

◆WEDGE2012年1月号より


 




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