世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年7月1日

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 米インド太平洋軍司令官デイビッドソンは、米国のインド太平洋戦略は、中国の攻撃性を抑止するためにあると、シンガポールのシャングリラ・ダイアローグの際に説明した。米国の対中競争政策は、米中両国が衝突するためではなく、逆に、衝突を回避するためのものであるというデイビットソン司令官の説明は、良く理解できる。中国の攻撃的行動はチェックする必要があり、そのために中国を抑止することが必要になる、それが対中競争政策だということである。

(donfiore/franhermenegildo/Thomas Northcut/iStock)

 ここで問題となるのは、中国の攻撃的な振る舞いと長期戦略に基づく影響力の世界的拡大である。中国が米国の競争者であるとの考え方は、トランプ政権になり、2017年の米国家安全保障戦略等で打ち出され、米国の対中基本姿勢が大きく変わった。これは必要な政策であったし、歓迎すべき転換でもあった。 

 しかし、その戦略の実施は、トランプの個人的な手法や政治的計算等の関与を得て、トランプ化が進み、問題が大きくなっているように見える。福岡での G20蔵相・中銀総裁会議でも多くの国が自国経済に影響する中心的問題として、米中貿易交渉の成り行きに懸念を示したという。米中関係が世界各国の経済に大きなリスクになってきている。 

 中国に強制技術移転の廃止、知的財産権の保護や産業補助金の是正など必要な経済改革を要求することは当然である。しかし同時に、米国には、次のようなことも考えることが、重要な段階に至っているのではないだろうか。 

(1)中国が米中貿易戦争を通じて、自主路線に進むことがないようにすること。相互依存の継続こそ、対中レバレッジの源と考えるべきだ。 

(2)問題解決型外交と長期競争外交の均衡を取っていくこと。交渉は明確な目的をもって交渉する。個別の政策や措置を変えさせることが重要である。 

(3)国際ルールに従って交渉すること。関税の乱用は問題であるし、合意も国際ルールと整合性があるべきだ。拘束された関税は戦後国際秩序の基幹の一つである。なおメキシコとの移民問題について米墨が合意し、米国が関税引き上げを停止したことにより、関税を振りかざしたトランプの瀬戸際圧力手法が一応功を奏したように見えるが、悪い先例を残すことになった。 

(4)中国の振る舞いを変えさせること。4月の北京での「一帯一路」首脳会議で習近平は演説し、「ビジネスと財政の持続可能性を確保する」、「インフラ建設では国際標準にのっとって進める」と述べ、入札や資材調達の手法を見直すとの考えを示した。また、輸入拡大、余剰生産能力の削減、知的財産保護、人民元の安定化、外資参入を認める産業分野の拡大、産業補助金など市場をゆがめる「正当でない」政策の廃止にも言及した。この変化は、日本等の主張が功を奏したとも受け取れる。実際の行動を見る必要はあるが、良い兆候である。 

 シャングリラ会合での中国の魏鳳和・国務委員兼国防相の発言は、国防相の発言だとしても、余りに挑戦的、一方的、独善的であった。特に、台湾、南シナ海等の後半部分はそうである。こういう思考、レトリックからは早く卒業すべきだ。その観点から言えば、中国の貿易交渉者達は、随分忍耐強く、成熟してきたように見える。主張はともかく、交渉態度等は、妥協の余地がありそうである。国際社会での経験がそうさせているのだろう。

 この中国の態度の相違は、経済では一時的に妥協しても、中国が考える「核心的利益」である台湾や南シナ海、チベットやウイグル問題では、決して妥協しないことの表れでもあろう。日本にとっては、尖閣諸島を中心とする南西諸島の防衛において、緊張が緩むことはなかなかない。

  
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