ドイツを驚かせた水処理技術

WEDGE2月号フリー記事


Wedge編集部

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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環境先進国ドイツで、いま注目を集めている日本の水処理技術がある。といっても、海水を淡水化したり、半導体の洗浄などに使われる超純水を作ったりする「水処理膜」ではない。「鳴き砂」から生まれたゴミを出さない、ろ過材リサイクルだ。

 その技術を開発した日本原料(川崎市川崎区)の齋藤安弘社長は「欧州が環境先進国といっても、浄水場のろ過砂は捨てている。ほぼ全てをリサイクルしている日本こそ環境先進国だとアピールしていきたい」と胸を張る。

 同社は、日本の浄水場で使われる「ろ過砂」の8割のシェアを持つ。官需ということもあって事業は安定していたが、3代目となる現社長の齋藤氏が1989年に入社して転機が訪れた。

 大手電機メーカーから転職した齋藤氏は、業界トップシェアに胡坐をかいて、設備投資もない、新卒採用もない旧態依然のままの組織に愕然とした。「ろ過砂もいつかは枯渇するにもかかわらず、同じことを続けている」ことに疑問を感じた。そこで目を付けたのがリサイクルだった。

 ろ過砂は、5~6年使用すると砂の周りに汚れがびっしりと付く。使用済みの砂は産業廃棄物として廃棄され、新しい砂と交換していた。新しいろ過砂を販売することで利益を上げていた同社にとって、リサイクルすれば、売上減は必至。それでも、危機感から開発に着手した。

 決断をしてみたものの、砂にこびりついた汚れを落とすことは簡単ではなかった。圧力をかければ砂のツブが壊れてろ過に適さなくなる。だからといって、飲料用なので洗剤を使うことはできない。袋小路かと思ったときに、普通の砂浜の砂から「鳴き砂」を作っているという研究者が同志社大学にいると聞き、早速研究室のドアを叩いた。

 そこで齋藤氏が目にしたのは、梅酒の瓶に砂と水を入れて横に寝かせ、ローラーで瓶をクルクルと回すという装置だった。これによって砂が渦を作り、その渦によって砂同士が擦れ合い、表面の汚れを落としていた。ドラム缶で試作品を作ると、上手く行ったが、洗浄に40時間もかかった。そこで考えたのが、らせん状のスクリューを装着することだ。スクリューのなかで、砂が下に落ちようとする重力と、スクリューによって上に持ち上げられる揚力をぶつけることで渦を効率的に作ることに成功し、洗浄時間は10分に短縮できた。「シフォン式ろ過砂洗浄機」と名付けて97年に商品化して以来、全国の100カ所以上の浄水場で施工してきた。

 2002年には、工場などの小規模の浄水タンク向けに、タンク内でろ過砂を洗浄することができる「シフォンタンク」を開発。民間企業へ販売の道を開くこともできた。

三顧の礼をしたあるドイツ人の情熱

 05年には、はじめてドイツの展示会に出展した。評判は上々でオランダ、アメリカと出展先を変えたが、毎年訪ねて来るドイツ人がいた。ドイツで水処理ビジネスを営んでいるeco-tron社のドルファー氏だ。

 技術を評価してくれるのはありがたかったが、シフォンタンクの内部機構である「らせん状のスクリュー」だけを売りたい、という提案に乗ることはできなかった。単純に既存の浄水タンクに差し込むと「らせん状のスクリュー」を設置する角度がずれてしまい、ろ過砂を洗浄する鍵となる「渦」は生まれないからだ。

 3年目になって齋藤氏が折れた。「1年待ってくれれば、外付けの装置を作る」と約束した。1年後、試作品を持ってドルファー氏と再会。そこから共同開発を進め10年に商品化した。最初の納入先となったのは、ドイツの公営プールだった。円高やユーロ危機で、足元の販売は鈍っているが、「将来的な海外売上比率として30%を目指す」という。

◆WEDGE2012年2月号より


 




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