矢島里佳の「暮らしを豊かにする道具」

2019年7月30日

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矢島里佳 (やじま・りか)

株式会社和える 代表取締役

1988年東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、 “0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。テレビ東京「ガイアの夜明け」にて特集される。日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開中。

 子育てをされている方々のお悩みを聞いていると「あのキャラクターのお弁当箱が欲しい」「このキャラクターの服が欲しい」という、かわいい物欲との闘いが挙げられる。

 とはいえ来年にはまた新たなキャラクターが流行っているだろうし、せっかくなら一つのものを大切に、長く使って欲しい……と頭を抱えられている方もいるのではないだろうか。

 小学校や中学校で講演をさせていただく機会があり、「お茶碗が壊れたら、どうしますか?」と聞くと、9割以上の生徒さんが、「壊れたお茶碗は捨てて、新しいものを買う」と答えた。

 そこで「金継ぎ、という方法で直せることを知っていますか?」と聞くと、「知らない」と口々に答える。そこで、金継ぎの器を見せると、「かっこいい!きれいー!」と、感嘆の声が上がり、「金継ぎを知っていたら、お気に入りの茶碗を捨てずに直したかった」という声も上がった。

 金継ぎとは、割れた器や欠けた食器を、漆を使ってお直しする日本の技術だ。

金継ぎ(写真提供:筆者) 写真を拡大

 私が金継ぎを知ったのは、二十歳の頃。漆芸の職人さんと出逢い、ちょっとした欠けやヒビはもちろん、真っ二つに割れてしまった器でも直せることを知り衝撃を受けた。日本では縄文時代から金継ぎが行われているそうだ。金継ぎを知って以来、いろんなお気に入りの物たちを直していただき、使い続けてきている。

筆者が直して使い続けている器や箸置き、花器(写真提供:筆者) 写真を拡大

 私が経営している株式会社和えるでは、お直し事業も行っており、様々な思い出の器を金継ぎなどで直すお手伝いもしている。その中で、とても心に残ったエピソードがある。

 お子さんが毎日使っていた器を割ってしまったそうだ。お子さんはとてもショックを受けたそう。そこで、ご両親は「職人さんに直してもらおう!」と、器をお直しに出してくださった。そして職人さんが見事にかっこよく器を直してくださり、お子さんはそれから物の扱いがより丁寧になったそうだ。「壊れるというショックで終わらすのではなく、直すという心を育む機会になった」とメッセージをいただき、とても嬉しかった。金継ぎが悲しい思いを優しく包み込み、また共に暮らせる喜びへと昇華してくれる。物を直すだけではなく、心の傷も癒してくれるのが金継ぎの力でもある。

金継ぎのお直し前【Before】(写真提供:株式会社和える)
金継ぎのお直し後【After】(写真提供:株式会社和える)

 現代の子ども達が、物を大事にする心を失っているわけではないのだ。消費購買行動で経済を押し上げることに必死になりすぎた大人たちが、物を大事にしていないのだ。そもそも直せる前提で使っていないのかもしれない。大人が物を大事にする背中を見せていないから、子ども達がその方法を知らないだけで、物を大切にする心は昔も今も変わらずに持っているのだ。

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