矢島里佳の「暮らしを豊かにする道具」

2019年5月12日

»著者プロフィール
閉じる

矢島里佳 (やじま・りか)

株式会社和える 代表取締役

1988年東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、 “0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。テレビ東京「ガイアの夜明け」にて特集される。日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開中。

「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いで、各地の伝統工芸の職人さんたちと一緒にオリジナル商品を生み出す矢島里佳さんが、日々の暮らしを豊かにする道具を紹介しつつ、忘れられがちな日本文化の魅力を発信していきます。

 昭和時代とは異なり、平成そして令和では、料理=女性の役割という方程式はもう古くなってきている。何十年もかけて、男女の平等とはというトピックは常に話題になり続け、昨今は、炊事洗濯家事ができない“男性”は結婚できないとまで言われる時代になった。

 私の周りの友人たちや、社員の旦那さんたちを見ていても、料理が上手で料理自体を好きな男性が多いと感じる。凝り性な人も多く、好きな料理の話から始まり、料理好き男子の談義は、「あのブランドのお鍋は機能的で且つデザインもかっこいい」、「真空調理の器具をセットで買った」など、調理器具へのこだわりへ移っていく。

 しかしながら、ふと気がついたのが、お玉、フライ返しなどの、料理をすくったり、ひっくりかえしたりする調理器具へのこだわりの話はあまり聞かないのだ。「おたまは、刳物(くりもの)が味があっていいよねー」と話すと、「え? 刳物って何? そういえば、お玉ってあんまりこだわったことなかった」という具合だ。

 そこで改めて自覚したのだが、フライパンやお鍋などへのこだわりよりも、どうも私は、お玉、フライ返しなどの調理器具への、強いこだわりを持っていたようなのだ。

iStock / Getty Images Plus / heinteh

私が “木製”の調理器具を選ぶ2つの理由

 一般的なイメージだと、おたま、フライ返しなどは、金属や柔らかいゴム系素材がよく使われていると思うのだが、我が家の調理器具たちを改めて見てみると、全部“木”でできていることに気がついた。なぜ無意識に木でできたものを求めていたのかと考えてみると、おおきく2つの理由が思いついた。

 1つ目は機能面で、金属が擦れる音が大の苦手なのだ。体から力が抜ける……。木だと擦れる音がしないので、気にせず料理をできる。

 2つ目はとても感覚的だが、手馴染みが良いからだ。人間の身体感覚は面白いし繊細だと感じるのだが、やはり無意識のうちに自然素材のものを求めている。特に料理は毎日のことでもあり、そして手をよく使う。握っていて、持っていて、心地よいものを私の手が自然と求めた結果、我が家は木の調理器具だらけになっていたのだ。

 余談だが、今この連載の原稿もノートパソコンで書いているが、キーボードのタッチの感覚はあまり心地よいものではない。長い間パソコン仕事をしていると、指先に違和感を覚え、自然素材のものを何か握りたくなるのだ。指先の感覚はとても鋭い。木のキーボードなども販売されているのもなんだか納得。

 ということで、暮らしを豊かにする木の調理器具にはどんなものがあるのか、今日は我が家のエースたちを紹介したい。

 私が20歳の頃、初めて買った木の調理器具第1号。

 刳物のお玉と出逢った時の感想は、「絵本で、くまの親子がスープを作るお玉だ!」だった。このお玉から、ほっこりとした温かみを感じたのだ。

 木は軽いので鍋に沈まないことから、「浮上お玉」とも言われている。拭き漆で塗装されたこのお玉と出会ってから、ずっと使い続けている。

広島県・山県郡安芸太田町の戸河内刳物(とごうちくりもの)の職人さんが作ったもの。刳物とはその名の通り、刃物で刳って加工する技で作られた物のこと。木から、ノミや鉋、柳刀などを用いて刳って商品が作られる(写真提供:筆者)
可愛らしい小ぶりのお玉も合わせて求めた(写真提供:筆者)
岐阜県・高山市の有道杓子(うとうしゃくし)の職人さんが作ったもの。こちらはまた少し用途が異なる。職人さんが実演してくださった際に話を伺ったのだが、金属製のおたまとは違って木製なので具材に刺さることがなく、煮物などに最適。食材を大切に料理できるのだ(写真提供:筆者)
また、裏を返すと平たくなっており、食材の裏漉しにも使える2wayの機能的な杓子。木工用品の仕上げは紙やすりを用いることが一般的になってきているが、有道杓子の仕上げには紙やすりは使わない。鉋で仕上げるので木が毛羽立たず、平に仕上がる。そのため、繊維の中に水分や素材が入り込みにくくなり、長持ちの秘訣なのだそう。ちなみに、素材は朴の木でできており、農閑期の冬の仕事として発展したと言われている(写真提供:筆者)
作家さんのもので、ふと気に入って購入したので、いったいどこのなんだかはさっぱり覚えていないが、薄く作られていてしなりもあり、非常にすくい易くて長年重宝している(写真提供:筆者)
最近頂いた、作家さんが作った桜の木のフライ返し。真ん中に穴が空いているのが優れもので、炒め物などに最適(写真提供:筆者)
石川県・輪島の職人さんからいただいた、拭き漆のお箸を菜箸として使わせていただいている。拭き漆が油を弾いてくれるので使い勝手が良い。色味も暖かく、八角形で手馴染みも良いので手が喜ぶ(写真提供:筆者)
番外編。フィリピンへ行った際に見つけた、竹のミニトング。掴みやすいので、サラダのとりわけなどに重宝。他にも用途がまだまだありそうで。使い方の開発途上のアイテム(写真提供:筆者)

関連記事

新着記事

»もっと見る