世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年9月3日

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 「逃亡犯条例」の改正をめぐって始まった香港の抗議デモは、10週を超え、空港や市内の交通機関を麻痺させるほど展開を見せている。これに対して、中国共産党は、人民解放軍を香港の近くに集結させる等、「第2の天安門事件」が香港において起こりうるような状況が出てきている。

(extracoin/Anastasiia Vasylyk/iStock/Getty Images Plus)

 8月8日付の英エコノミスト誌は、天安門事件のようなことにならないようにとの希望、期待を表明し、そういうことになった場合、「中国の安定も繁栄も」悪影響を受けると中国に警告している。しかし、中国の共産党指導部がどう考えるか、予断を許さない状況である。

 ここで思い出される事件は、1968年のソ連軍のチェコ侵攻である。まさかソ連がそこまで乱暴なことはしないであろうと考えていたが、間違いであった。8月21日、タス通信が、「ソ連はチェコ人民に友好的援助を提供することにした、その援助には軍事的手段によるものも含まれる」と報じ、ソ連軍は、チェコに軍事侵攻した。実は、この侵攻の前に、赤軍とワルシャワ条約機構の軍隊がチェコ周辺で演習をしていたことが、あとから分かった。 

 今回も、香港に近い深圳で人民解放軍が演習をしている。部隊が集結している。それを踏まえて、トランプ大統領は、中国に自制を求め、習近平主席に香港のデモの代表者らと対話することを訴えているが、習近平がそれに応じる気配は今の所ない。 

 人民解放軍は、香港自治政府の要請があれば、いつでも出動する用意があるとしており、国務院の香港担当部局は、我々の自制を弱さと受け取ってはならないと警告を発している。 

 香港の抗議デモ隊の側も、香港自治政府側も、不信を乗り越えて対話するなど、事態を鎮静化する方向で努力すべきであろう。逃亡犯条例改正問題は、抗議者側が実質的にそれを阻止することに成功した。更なる民主化をという気持ちはわかるし、警察のやり方への憤懣もわかるが、ほどほどに要求を抑える必要がある。香港独立、香港人が主役の香港など実現不可能である。香港の特別な制度は2047年までは続くことになっている。その制度、地位を守るためには、多少の妥協も必要になろう。 

 中国は、米国の策謀、テロの兆しを指摘し、軍事介入した場合の口実作りをしている気配がある。また、中国のこの問題への対処ぶりは、外交上の考慮よりも内政上の考慮で決められる可能性が高い。新疆ウイグル、チベット自治区の現状を見ても、香港の将来が明るいとは決して言えないだろう。1989年と比べても中国は大きくなりすぎた。1997年に、香港の「一国二制度」が50年間続けば、中国も民主化するのではないかと言われていたことが、幻想であったことは、今日の状況を見れば明らかである。

 そんな中、8月20日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙に、米上院院内総務のマコーネルが、香港のデモを支持する論説を掲載した。マコーネル院内総務は、香港の問題は北京の国内抑圧の強化と海外での覇権追求の結果である、香港の自治が侵食されれば米上院は対応措置を取っていく、中国は混乱を回避すべきであると述べている。中国が香港に武力介入することがあれば、すぐに米国議会が何らかの措置を取ることになるだろう。トランプ大統領も習近平主席に対して、香港に武力介入したら議会が対抗措置を取るから、貿易で取引も出来なくなってしまう、だから止めてほしい、と述べている。

  
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