2024年5月6日(月)

From LA

2020年3月31日

「ハリウッド」サインのあるインズデールトレイルも立ち入り禁止に(AP/AFLO)

無保険者は2750万人

 感染者がついに10万人を超え、全米で20以上の州が外出禁止措置を取るなど、まさに国を挙げてのパニック状態に陥っている米国。特に被害が甚大なニューヨーク州では医療崩壊が始まりつつある。しかし、それでも病院で治療を受けられる人々は幸せで、国民の中には高い医療費を恐れて症状があるにもかかわらず自宅に籠もる人々が一定数いると推定されている。

 米国で医療保険を持たない人の数は2750万人。さらに不法移民が数百万人単位で存在する。これらの人々は、米国の医療制度から弾き出された存在だ。実際に筆者の身近にもガンを発病したが治療費が支払えず、治療をやめて亡くなった人もおり、こうした医療弱者の存在はかねてから米国が抱える大きな問題の一つだった。

 しかもコロナウィルスの拡大による企業の雇い止めなどで職を失い、雇用主を通しての健康保険を失った人々もいる。カリフォルニア州だけで3月末現在失業保険の申請数は300万を超えているのだ。

 もちろん、病状があるにもかかわらずカウントされない人々が増えれば、そこから新たなクラスターが生じる可能性があるため、米医療従事者組合などでは「無保険だからといって病院が対応を変えることはない。同じ治療を受けられるので、症状がある人は検査を受け、受診してほしい」と呼びかけている。

 しかしそれは簡単なことではない。政府のガイドラインでは、疑わしい症状がある場合、まずかかりつけ医に相談し、そこから検査に該当するかどうかを判断する、としている。かかりつけ医というのは一般的に保険会社の契約に基づき、利用者が自宅や勤務先から近い、などの条件を満たす医師を保険会社のリストから選ぶシステムになっている。つまりどの保険会社と契約しているかによって選べる医師の数にも違いが出る。無保険者がこうしたかかりつけ医を持っている可能性は非常に低い。

 無保険の人々が重篤な怪我や病を発症した場合、最も多く使われるのがER、病院の救急診療部門だ。非常性からERでは無保険者を拒絶することは少なく、支払いに関しては後に病院のソーシャルワーカーと相談することが出来る。減額、ローンなどの措置が取られることも多いし、もし州が定める貧困層の所得の132%以下であれば政府が提供する貧困層向けの無料の医療保険に申請してもらえることもある。

 ただし今回のウィルスについては、感染拡大を防止するため、各医療機関のERはウィルス感染の疑いのある患者を受け入れていない。隔離病棟などのある専門病院での受診が必要となる。無保険者にとっては八方塞がりの状況だ。

 もちろん各自治体はホットラインを設け、自分がウィルス感染しているのではないか、と恐れる人々の相談に乗っているし、CDCをはじめスマホなどでセルフチェックできるウェブサイトを提供している企業も多い。しかし問題はそうした相談やチェックを行った上でウィルス感染が相当に疑わしい、と感じられる人々が、その先の助けをどこに求めるかということだ。

 この事態を受け、アフォーダブル・ケア・アクト(以前のオバマケア)では「今からでも、一時的にでも、健康保険への加入」を勧めている。しかしこれも結構曲者で、米国の場合は民間の保険会社が様々なプランを提供しているため、選択が非常に難しい。保険料が安いものは自己負担率が高い、コロナウィルスのような感染症は除外する、など細かい規定がある。しかしすべてをカバーするような保険となると、月々の保険料が2000ドルを超えるものも珍しくない。どちらを取っても低所得者にはハードルが高すぎる。


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