安保激変

2012年5月29日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター主任研究員

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 昨年11月末以降、ワシントンでは「sequestration」という、日本では馴染みのない言葉が新聞紙上を定期的に賑わせている。この言葉は昨年、財政赤字幅引き上げとその前提となる財政再建策の内容を巡りオバマ政権と議会が、すわ財政破綻というギリギリの線で交渉をしていく中で広く知られるようになった。そして、大統領選終了後から年末までの2カ月弱の間、おそらく、このsequestrationという言葉がアメリカの国内政治のキーワードの一つになるだろうと思われる。「アジア太平洋重視」を打ち出したアメリカ――。今回は、この「sequestration」が、アジア、そして日本にどのような影響を与えるのか考えてみたい。

「スーパーコミッティー」 合意に至らず

 そもそも、sequestration とは何か? 昨年8月、オバマ政権と米連邦議会、特に下院で多数党を占める共和党が、米国の財政再建策を巡り厳しく対立したことで、財政赤字総額の上限の引き上げが行われない状態が続き、米国政府が財政破綻する瀬戸際に立たされた。

 最終的には予算制限法(Budget Control Act)という法律が成立し、財政破綻は免れたわけだが、同法では予算年度2012~2021年の10年間で米政府が総額2.1兆ドルの支出削減策を講じることを義務付けた。このうち9千億ドルは直ちに削減を目指すこととし、残りの1兆ドル超については今後10年間の中でどのように削減するか、上下両院から民主党、共和党夫々3名ずつ、計12人の「スーパー・コミッティー」が議論を行うこととされた。

 そしてこの「スーパー・コミッティー」が2011年11月の感謝祭までに財政再建策を巡る合意に至らなかった場合、或いは彼らから提出された財政再建策が連邦議会本会議で否決された場合には、2012年1月2日から連邦予算を一律10%カットする、という「トリガー条項」が設定された。これがsequestrationである。そして昨年11月の期限までに「スーパー・コミッティ」が財政再建策を巡る合意に到達することが出来なかったため、年末までに何らかの代替法案を議会が可決できない場合は、sequestrationが予算制限法の規定に基づき来年1月2日に発動されてしまう――というのが現在の状況である。

国防予算はさらに5000億ドルの予算削減に

 このsequestrationが発動された場合、連邦予算全体が一律10%カット、ということで、当然、国防予算も来年1月からの予算削減の対象になる。予算制限法の下、国防総省は既に支出を3500億ドル削減することを義務付けられている。sequestrationが発動された場合これに加え、今後10年間で更に5000億ドルの予算削減を迫られる。しかも予算削減を来年1月から実施しなければいけないとなると、国防総省にとっては大変な事態が発生する。

 余り知られていないがアメリカの国防予算は2010年をピークに既に減少傾向にある。これはイラクやアフガニスタンから米軍が撤退を始めたことで、イラク・アフガニスタン用の戦費が縮小しているためだ。更に、国防省は、今年の1月5日に「国防戦略ガイダンス:米国の世界的リーダーシップを維持する~21世紀の国防の優先課題」を発表した。この文書は、財政再建の必要性が強く叫ばれる中、国防予算の削減が不可避の状況で如何に米国の戦略上の優先課題を国防予算に反映させるかについてまとめた文書である。

 この文書では、今後、厳しい財政状況の中でどのように国防の義務を果たすかを考えたときに、(1)海軍力・空軍力を中心とした兵力構成に移行し、陸軍と海兵隊についてはそれぞれ人員を縮小すること、(2)中東とアジア太平洋を「重点地域」に認定、それ以外の地域についてはコミットメントは維持するが、具体的な方法については新たなアプローチを模索する、などが発表されている。

→次ページ 「ヒト」「モノ」削減で現場は大混乱の危険性

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