2024年11月22日(金)

安保激変

2012年5月29日

 「戦略ガイダンス」の中で国防総省が示している米軍再編のプランは、予算制限法が義務付けている3500億ドルの支出削減を前提に作られた計画で、その枠内で10年間かけて徐々に米軍の態勢を変容させることを目指している。sequestration 発動により追加的に10年間で5000億ドルという大規模な予算削減をしなければならなくなった場合、当然、計画は一から見直しを迫られる。また、来年1月からすぐに支出が削られてしまうことで、10年間をかけて変えていくはずだった兵力規模・構成に直ちに変更を加えることを余儀なくされる。

「リストラ」や兵器調達契約で混乱の危険性

 例えば、「辞めた人間の後の人員補充をしない」というのは、徐々に人員を削減しようとする場合によく使われる方法だ。しかし、sequestrationが発動されてしまうと、これでは間に合わないので、民間で言うところの「リストラ」をしなければならない。兵器の調達に関する契約も、10年かけてゆっくりと減らしていく予定だったものが、来年から直ちに契約終了或いは大幅縮小を求められる案件が続出する。つまり、米国の国防にとって最も大事な「ヒト」と「モノ」に関して、現場で大混乱が発生する危険性があるのだ。

 このような背景があるため、現在、国防総省はパネッタ国防長官を筆頭に、議会に対してsequestrationがいかにアメリカの国防にとってダメージとなるかを訴え、なんとかsequestrationを回避しようとしている状態だ。また、議会でも下院の軍事委員会や歳出委員会を中心に、国防産業や軍人とその家族を選挙区に抱える議員が「国防予算を守れ」とばかりに2013年度予算で国防総省が提出した予算額を上回る額の予算を認めようとするなど、国防予算削減をめぐるワシントンでの議論は沸騰している。

sequestration回避でも削減は想定以上か

 ただ、「sequestration は回避できても、国防総省はおそらく、現在想定している以上の予算の削減をすることになるだろう」とする見方は、特に国防予算の分析を専門とするアナリストの間ではある程度定着しているようだ。

 例えば、パネッタ国防長官がクリントン政権下で行政予算管理局(OMB)(日本で言うと財務省主計局が官邸の組織になったようなもの)長官として政府支出削減の大ナタを振るっていた時代に、彼の下で国防総省予算担当官を務めていたゴードン・アダムズ氏は、今年4月下旬にワシントン市内で開かれたシンポジウムで「米国の歴史の中で、国防費は常に増加と減少のサイクルを続けてきた」と指摘。「米国は現在、朝鮮戦争以来4度目の大規模な兵力縮小期に入っていることを米政府の人間は理解し、これを受け入れる必要がある」と述べた。

 彼らの主張に共通するのは(1)米国は大きな戦争が終わると、必ず大規模な兵力縮小(defense builddown)を行う、(2)イラク・アフガニスタンでの戦闘行動が終焉しつつある今、大規模な兵力縮小が行われるのは過去の歴史を見ても自然かつ合理的な流れである、ということ。これに、これまでの兵力縮小期とは比べ物にならないほどの米国の財政状況の悪化を加味して考えると、国防予算は「削減ありき」の議論が当分は続く可能性が高く、その中で如何に米国に対するリスクを最低限に食い止めるような予算の使い方をするか、が焦点になる、ということのようだ。

日本への影響は?

 米国防予算のこのような状況はアジア太平洋地域、特に日本にとって何を意味するのか?

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