2024年5月6日(月)

家電口論

2020年8月5日

ナノエアーマスク

 長時間装着しているとマスクは蒸れるという問題ありますが、それに対する1つの回答がアイリスオーヤマが新ラインで生産している「ナノエアーマスク」です。通常のマスクと違うのは「特殊フィルター」「口元のスペース」「耳紐」の3点です。

 不織布フィルターが、ウイルスなどを捕獲する時、2つのトラップが使われています。1つは網の目の大きさによる物理的なトラップ。あと1つは静電による電気的なトラップです。このうち、蒸れに関わりがあるのは網目の大きさ、物理的なトラップです。

 通常、不織布フィルターは、一種類の繊維で作ります。例えるなら太い丸太のみで、ダムを作るようなもの。ウイルストラップのためには、穴を小さくしなければなりません。となると、かなり厚みを持たせる必要があります。

 では、繊維を2種類にするととどうか、太い繊維の間に、細い繊維が潜り込みますので、薄くてもトラップできる網目を作ることができます。薄いということは、水蒸気などは逃げやすいことを意味します。つまりウイルスなどのトラップ効果は同じながら、水分は逃げやすいという、今までのフィルターではできなかったことができるようになったわけです。

 このために、アイリスオーヤマが採用したのは「エレクトロスピニング製法」。近年ナノレベルのフィルターの製造技術として注目されている製法です。が、この話の一番のポイントは、アイリスオーヤマが日本で生産するときに、不織布も自社で作ることにしたことにあります。自社製化はコスト的には不利な面もありますが、開発するときはありがたいことが多い。根底から見直し、自由度を広げることも可能なのです。

 2つめの口元スペースでは「3Dワイヤー」と呼ばれる2つめのワイヤーが追加されています。マスク中央のこのワイヤーで口元にスペースを作ることができます。当然、息を吸うたびに張り付く感じはなくなります。空気通りもいいのでかなり楽です。

 女性にとっても、口元に余裕ができ、唇にマスクが触れないですむのは、いい感じではないかと思います。

 そして最後の工夫は、長時間着用マスクの問題として出てくる耳への負担です。この耳かけ、合わないと、ひどく気になります。特に1点に当たっている場合は悲惨。耳が擦れてしまい肌がヒリヒリすることさえあります。また耳は後ろから前への力には弱いのです。耳かけは、かなり重要な問題なのです。

 これに対しアイリスオーヤマが出した解答は、幅があるグニャリとした紐です。この紐、実は包帯と同様の考えで作られています。包帯はご存知の通り傷口の上に巻き付け、傷口を防御します。しかし、過度な力がかかると傷口を圧迫することになりますので、痛くなります。こうしたことが起こりにくいように、包帯は圧力分散するように編まれています。

 今回アイリスオーヤマは、その編み方を耳掛けに用いました。この耳掛け、使うときはとても良いのですが、作る時は大変。グニャっとしたコシのないものですからハンドリングしにくいのです。こちらも今回、国産化のための新ラインでの対応となります。

 新型マスク ナノエアーは、国産だからこそできたマスクとも言えます。

シャープとのビジネスプラン、アイリスオーヤマのビジネスプラン

 シャープのマスクは、メディアで大きな話題を呼び、日本製なので品質が良いと評判。ネットでは、約100倍の競争率。すごい人気です。

 しかし不安要素もあります。それは、販売ルートと商品の差別化です。

 今のシャープ人気は、日本の有名会社が国内生産していることに由来しています。が、それだけでは、ビジネスは継続できません。というのは、なぜ日本メーカーが中国で生産する理由を考えるとお分かりいただけると思います。必要コストと必要品質と必要量のためです。それがグローバル経済ということです。そのために、製造技術の一部は海外に流出たわけですが、グローバルの場合、地球=一国という見方もあり、国防のように「秘密を外に出さないよう、全て自国で」というのと考えが異なります。

 好調のシャープマスク、国産マスクだからと、支持を受け続けられるのでしょうか? これは大きな問題です。シャープは液晶テレビ事業では、亀山に大工場を作り、無人化を進めることにより海外との人件費差を埋め、勝つビジネスプランを立てましたが、上手く行かず、今では海外メーカーの傘下です。今回のマスクビジネス、同じ轍を踏まないことはできるのでしょうか?

 シャープが生産しているのは、普通の不織布マスクです。性能は、BFE(細菌飛沫ろ過効率)、VFE(ウイルス飛沫ろ過効率)、PFE(微粒子ろ過効率)、などをクリアしていますが、日本メーカーの不織布マスクとしては普通です。あくまでもシャープマスクの魅力は、「日本製」であることにつきます。

 逆に、不安要素は、フィルターなどを外部調達しておりコストダウンしにくいこと。パッケージラインが単一、50枚箱入りしかできないことです。パッケージは重要なポイントで、いろいろなパッケージができないと、販売ルートが限られるのです。また新機能を盛り込もうとしても、フィルターなど外部に出しているものは、数量を保証できないと新開発してはもらえません(新機能と数量のやり取りは、iPhoneなどで御馴染みのお話ですね)。

 シャープは、クリーンルームがあり、政府の補助金があり、導入時間、投資のハードルは低かったのは事実。そして導入を鮮やかに成し遂げました。かし、そこからは未知です。問題は販売、そして差別化。シャープがマスク事業で成功するために、必要な条件です。そうでなければ、ひらすらコストダウンするしかありません。

 実際、シャープは生産量を上げています。一つは、期待されている需要を早期に満たすためですが、もう一つ、海外ともある程度、コストでも対抗できるようにしているのかもしれません。

 逆に、シャープの3カ月遅れで、国内生産を始めたアイリスオーヤマ。こちらは、クリーンルームの新設、ラインの新設、原材料の国産化。より拡大するため、コストダウンの要素も取り入れています。確かに投資額は大きいですが、アイリスオーヤマは営業ルートを持っています。拡張もしています。6月、近所のローソンでも、中国製ですがアイリスオーヤマのマスク扱っていました。コンビニは一店舗では、ホームセンター、ドラッグストアの売り上げに及びませんが、単価を下げる必要がありせん。逆に、コンビニサイドからすると安定供給がマスト条件。今回のコンビニ進出は、国産化が認められたからだと思います。アイリスオーヤマは、新規顧客先はまだまだあると言っていましたが、数量、シェア共に拡大もしそうです。


新着記事

»もっと見る