世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年7月20日

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 5月21日付仏Le Monde紙に掲載された記事の中で、Jean-Paul Perruche仏L’IRSEM 研究部長(陸軍出身)及びJolyon Howorth 米イエール大学客員教授(英国出身の欧州政治学者)は連名で、現在の西側の相対的衰退期、緊縮防衛予算の時代に即した欧米関係を構築することが重要で、NATOの将来は、指導力、自律性、能力を向上させた欧州にかかっていて、それは、EU内で達成され得るものである、と述べています。

 すなわち、1949年、NATOは、民主主義という価値の共有及び自由欧州を防衛するという共通戦略利益を基礎として創設された。米国の指導力の下、加盟国の軍隊が全面的に参加するというのが当然であった。しかし、1990年の冷戦終結によって、欧州での脅威が消滅すると、NATOは、欧州の民主主義を防衛することから、民主主義を広める方へ移って行った。まずは東欧へ、そして域外のイラク、アフガニスタン、地中海へ…。しかし、そこでの欧州の貢献は積極的とは言えず、NATOの作戦上の交戦規則でも、米国との相違が浮き彫りになった。

 近年更に深まった欧米間の安全保障上の利益の相違には、経済危機、イラクやアフガンでの参戦、中国等の新興国の台頭が背景にある。そして、本年1月、米国戦略報告は、米国が軸足を、アジア太平洋へと移すことを明らかにした。すなわち、欧州の防衛、安全保障への米国の関与が減少するのである。

 従来NATOは、米国が欧州の防衛を保証する代わりに、欧州が外交・安保政策や防衛産業協力で米国を支えるという、暗黙の原則の上で成り立ってきた。しかし、この暗黙の了解は、米国の新戦略及びそれを支える欧州の能力の限界によって、見直されなければならない。  

 しかしながら、「大西洋の絆」は、今日、益々不可欠になっている。それは、西側民主主義諸国の相対的衰退を補い、また、21世紀の世界における欧米の影響力を維持するためである。欧米双方の安全保障上の戦略利益は、性質的に、そして地理的にも同じではないが、それでも両者は、お互いに補完し合う関係である。米新戦略報告でも、欧州は米国にとって利益であり、欧州諸国は米国の最も緊密なパートナーである、と書かれている。米国は、自国の優先地域である中東やアジア太平洋地域に力を集中したいので、欧州には、欧州周辺地域に対する責任を果すことを望んでいる。すなわち、これからは、欧米が、同じ地域で共通行動を取るのではなく、地域を分けて役割分担するように、NATOの機能を変化させることが重要になってくる。

 従って、NATOの新戦略の中では、欧州がより責任を持って、より自律した形で、より能力を向上させて、周辺地域の安全保障に関与することが求められる。ところが、現在の欧州は、金融危機に見舞われ、脅威も少ないので、防衛予算を上げて、能力向上を図ることは到底難しい。BMD(弾道ミサイル防衛)配備計画にしても、それが真に欧州の能力向上に寄与するのか、米国への依存を高めるのではないか、縮小防衛予算で賄えるのか、疑問が呈されている。

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