2024年5月15日(水)

家電口論

2020年11月13日

シャープのフェイスマスク

シャープのフェイスマスク

 シャープは2020年2月に不織布マスクの事業化を決定。わずか1ヶ月後の3月出荷という離れ業をやってのけました。そして11月。出荷一億枚。途中、子供用のサイズ追加をしましたが、いやはやすごいことです。

 そのシャープが新しく発表したのが、「フェイスマスク」です。

 今までのフェイスマスクは、とりあえず形にしましたという感じがするものが多く、使っている間に、鼻息で曇ったり、強い光を反射して顔が見えなくなったり、本来の色と違う色がのったりしていました。

 そう言ったところを改良して、使いやすいフェイスマスクを作ろうというわけです。というのは、コロナ禍でフェイスマスクを使うとなると、長時間連続使用となります。長時間装着使用するモデルに必要なモノは、欠点がないことです。例えば、呼吸する度にフィルムが曇ったらどうでしょうか? イライラしますよね。それでなくとも、フェイスマスク、不織布マスクは、負荷があります。それにイライラが加わると……。

 ウェアラブル製品のポイントは、違和感がないことです。このため、シャープは液晶パネルに投入している技術を使うことにしました。実は、液晶パネルというのは、キレイなガラス基板の上に、機能性フィルムを必要枚数貼り付けて作ります。この「機能性」を作り出している技術を投入したわけです。

 具体的には、基板の樹脂をポリカーボネート(以下ポリカ)にしました。ポリカは建材に用いられる程強固な樹脂です。しかし、もう一つ特性があります。光学特性がとても良いのです。このために、光ディスクの基板に採用されています。レーザーの光学特性が変わらないからです。「色が変わらない」効果をもたらします。

 そして、ポリカフィルムの表面をモスアイ化します。モスアイというのは、「蛾の眼」の意味です。表面を見た時、そう見えるからです。効果は「反射」させないことです。モスアイは表面をナノオーダーの凹凸を付けることでできます。反射は光が角度を持って入った時、屈折率が大きく違う物質の境界面で起こる現象です。若干触れますが、空気の場合はn=1.00、ポリカはn=1.58。十分な差がありますので、反射が発生します。屈折率が、ほとんど差がない、連続して変わると反射が起こりません。モスアイの表面は凸凹。しかもナノオーダー。可視光線の波長も似たようなモノです。そこでの凸凹ですから、屈折率が微妙に変化しているのと同じ効果が得られるのですね。ナノ加工技術の一つです。

 そして、同時にそこに親水イオンを付けます。樹脂の表面に付いた水は、半球状になります。水は拡がらず水滴を形成しようとするのです。科学的に言うと「濡れ性」がないと言うわけです。しかし、親水基で付けてやると、面に対し均等に拡がります。「濡れ性」が出てきたわけです。この表面改質もメジャーなナノ可能の技術です。そしてモスアイの凹凸で表面積が増えていますので、あっと言う間に蒸発します。つまり「曇らない」と言うわけです。

できないことは、専門に任せる

 フィルムの方は、自社の技術で対応できますが、問題はウェアラブルであること。要するに装着感です。ソニーがイヤホン開発のために、すごい量の耳型を持っていることは知られていますが、それでも完全に行かないのが装着感です。

 ウェアラブルを作ったことがないシャープが頼んだのはプロです。メガネのデザインを手掛けている大浦イッセイ氏に依頼したのです。彼は医療関係の仕事もしており、このようなことに理解の深い人です。そして今回用意されたフレームは2つ。チタン製と樹脂製です。チタン製はメガネのフレームで名高い鯖江製。

 独特の会場ですが、メガネを長年かけている私が、「欲しい」と思えるほどの掛け心地。こうして、新しいフェイスマスクが出来上がったわけです。

 しかし、フェイスマスクは、マスクと違い、防御性はほとんどありません。このため私は担当に、需要は確実なのかと尋ねてみました。答えは、「あります。確認しています。」との回答でした。口元出さないと失礼な感じがする接客関連で、強い要望があるそうです。そのためか、このフェイスマスクは業務用を前提に売りに出されます。

製造には、余剰クリーンルームを活用

 シャープのフェイスマスクは、日本設計の日本生産です。シャープのディスプレイ部門が持っている鳥取工場で生産されます。クリーンルームがあるからなのですが、55インチの4k液晶テレビが、約10万円です。価格が随分と下がりました。要するにジャパンメイドのテレビは、性能と価格が釣り合わないのです。

 不織布マスクで、三重のシャープ工場の余剰クリーンルームを使いましたが、同じことが鳥取工場でも行われたわけです。


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