WEDGE REPORT

2012年8月28日

 エネルギー政策を決めるための「国民的議論」における原発ゼロ支持の声の多さに、政府がいまになって慌てている。

 担当する古川元久国家戦略相は8月28日の閣議後の記者会見で、「定量・定性の両面から評価・検証しなければならない」と原発ゼロを慎重に点検する立場を強調した。古川戦略相は1週間前の21日の記者会見では、「私はそれ(原発ゼロ)を目指したい」と答えており、迷走しているようにしか見えない。

 しかし、この迷走、どうも解せない。そもそも原発ゼロに世論が傾くように仕向けたのは政府自身だからだ。

 震災から1年半。さまざまな報道や議論を通じ、原発ゼロのデメリットは今ではよく知られるようになった。その第一は、経済への悪影響である。なんとか電力需給の逼迫を免れたとしても、火力代替による輸入燃料費の増加や電力料金の上昇を通じ、経済にマイナスの影響を与えるのは避けられない。

 ところが国家戦略室は、6月29日に3つの選択肢を発表して以来、「どの選択肢でも経済はプラス成長する」という、“詭弁”を弄してきた。その背後には、ある議員の存在がある。

経済成長という“詭弁”

 原発事故に対する対応の拙劣さをまざまざと見せつけられた上に、原発ゼロでも経済は成長すると言われれば、原発維持を選択する人が減るのは当然だろう。

 選択肢の経済分析を行った4つの研究機関(国立環境研究所、大阪大学・伴教授、慶應義塾大学・野村准教授、地球環境産業技術研究機構)は、3つのシナリオのどれを選択しても、GDPに対してマイナスの影響があり、とくにゼロシナリオは他のシナリオにくらべてマイナス幅が大きいという分析結果を提出した。

 なかでも、リーケージ効果(日本のエネルギー価格上昇による他国での生産量の増加のこと、産業空洞化に近い概念)を盛り込んだ唯一の経済モデルであるRITEは、原発ゼロシナリオについて「45兆円のマイナス」と弾き出した。GDP1%減、1%増程度で普段大騒ぎしているのだから、これだけのマイナスは到底甘受できるレベルではない。それを、国家戦略室は「現在よりはプラス」と表現することで、ごまかしているのである。

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 この“詭弁”を理解するために、右図をご覧いただきたい。ややテクニカルになってしまうが、経済影響は、そのシナリオをとらなかった場合(なりゆきにまかせた“自然体ケース”)のGDPとの比較、つまり、相対評価で行うのが常識である。実際に将来どのようなGDPの伸びになるかはわからないので、いったん“基準”を仮置きすることで、そのシナリオがもたらす効果を相対的に把握するわけだ。

 「現在と比べてプラス成長」というのは、この“基準”=“自然体ケース”が、高めに仮置きしているからに過ぎない。2010年のGDP 511兆円に対し、自然体ケースは2030年609兆円(RITEの場合)。これは、2010年代は1.1%、2020年代では0.8%という実質GDP成長率を、国家戦略室が経済分析チームに「与えた」からである。基準がこれだけ伸ばしてあるから、45兆円のマイナス影響があっても、「現在と比べればプラス」なのだ(右図の上のグラフ)。

 もし実体経済が低成長に陥れば、シナリオ選択のマイナス影響が加わることで、当然マイナス成長になり得るのである(右図の下のグラフ)。

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