あの挫折の先に

2012年9月14日

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夏目幸明 (なつめ・ゆきあき)

ジャーナリスト

1972年、愛知県生まれ。愛知県立豊橋工業高校から早稲田大学へ進学、卒業後、広告代理店に入社し、その後、雑誌記者へ。小学館『DIME』に『ヒット商品開発秘話 UN・DON・COM.』を、講談社『週刊現代』には、マネジメントの現場を描く『社長の風景』を連載。ほか、明治学院大学講師をつとめ就活生の支援を行う。『資格の学校TAC』では、就活生と一緒にエントリーシートを書き、面接練習を行う講座を持つ。
執筆記事:「社長の風景」(現代ビジネス)、「火力発電所奮闘記」(『VOICE』)、「ビジネスの筋トレ」(『フレッシャーズ』)、「就職活動セミナー」(『資格の学校TAC』)

第6回 洋菓子店「モンサンクレール」をはじめ、
コンセプトの異なる12のスイーツ店を運営する
シェフパティシエ 辻口博啓さん(45)

 東京・自由が丘の洋菓子店『モンサンクレール』。店主の辻口博啓は、メディアへの露出も多く、かつての人気番組『料理の鉄人』では、鉄人を打ち破った経験も持つ。現在は、一般社団法人『日本スイーツ協会』を立ち上げ、スイーツの歴史や栄養学などを広める活動に注力。スイーツに関する幅広い知識を問う『スイーツ検定』を実施し、スイーツの魅力を伝えられる人材の育成に励んでいる人物だ。

 しかし、辻口も順風満帆な人生を送ってきたわけではない。通常であれば専門学校に進みパティシエになるための勉強をするが、辻口は高校卒業後、意を決して上京し、都内の洋菓子店で働き始めた。その理由は、実家の和菓子屋が倒産し、継ぐはずだった家業も帰る家も無くなったため、自分の力のみで生きていかざるを得なくなったからだ。さらに、一見華やかに見えるパティシエの世界だが、辻口は入門してから3年間、ケーキに使うスポンジやクリームをほとんど触らせてもらえなかったという。

つじぐち・ひろのぶ/67年、石川県生まれ。23歳のとき、史上最年少で全国洋菓子技術コンクール優勝。その後、27歳でパティスリーの世界選手権『クープ・ド・フランス インターナショナル杯』で優勝する。国内外から注目を浴びるパティシエの一人。

 「来る日も来る日も、トイレ掃除や材料の仕入れ、在庫の管理といった仕事ばかりでした。朝6時から夜の12時まで働いて、休憩は昼ご飯を食べる間の15分だけ。週に一度の定休日にも休めず、ケーキにかけるコーヒーパウダーを一週間分作り貯めなければいけませんでした。炒ったコーヒー豆を、巨大なコーヒーミルに入れて、手で回してすり潰すのですが、粒が見えないくらいキメ細かくするには、何度もミルにかける必要があります。紙コップ一杯分作るのに1時間近くかかって、それを7つ分……休みが丸1日潰れていましたね」

 本稿をお読みの若手の方で、地味な仕事ばかり任されて辛いと感じる方も多いだろう。ところが、辻口はこの3年間を「職人として最も大事なことを学んだ期間だった」と振り返る。

地味な仕事ができない人は伸びない

 「パティシエの仕事には、お客様から見えない地味な仕事がたくさん隠れています。例えば、美味しいお菓子を作るには、常にフレッシュな素材を使うべきです。その為には、材料のストックを作らず、こまめに仕入れを行う必要があります。さらに、仕入れた材料ごとに、温度や湿度を調整して保管することも大事です。結局、地味な仕事をキッチリできる人でないと、伸びないんですよ」

 こうして、一流への道を歩み始めた辻口、しかし、彼の苦心はここからも続く。

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