都会に根を張る一店舗主義

2012年9月28日

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 まずは、長いことサボっていたことを、心からお詫びしたい。不景気と震災後の倹約ムードの煽りをくらってか、気になっていた個性ある店があちらこちらで潰れていて、ちょっとだけ気を落としていたのである。

 けれども、こんな時にこそ、めげてはいけない。ただの栄養補給ではない、食のパワースポットは大事にしたいではないか。そこで今回は、一風変わったバーを紹介しよう。

“ダウンシフト”の動機は?

お店は看板すらなし、思わせぶりな月の満ち欠けのレリーフだけが

 その名も『たまにはTSUKIでも眺めましょ』。常連は、“たまつき”と呼ぶ。池袋駅の西口から歩いて悠に10分、ゆっくり行けば15分はかかる、居酒屋や多国籍料理屋、マンションが混在するところにぽつんとあって、看板すらない。知らなければ、かなり酔狂な人でない限り、門を開ける気にはならないだろう。

 しかもわずか6.6坪。ところが、これが親父さんだけではなく、女子会でもカップルでも、疲れた仕事帰りの一人飯でも使えるというありそうでない空間なのである。

 主人の高坂勝さん(42歳)は、ちょっとした有名人で、数年前、『減速して生きる~ダウンシフターズ~』(幻冬舎)という自伝で話題になった。

 もともとは神奈川県生まれの都会っ子だそうで、進学校を出て、大手百貨店に就職、ばりばり働いていた。しかし、そのサラリーマン暮らしを30歳で辞め、3年間、世界一周旅行や金沢の飲食店などで料理修業をした後に始めたのが、この店だ。

 “ダウンシフト”の動機は、何だったのだろう。

主人の高坂勝さん。店には、エコ入門の書籍やチラシが並ぶ

 「まず、ストレスで疲れてきたのが、動機の8割。それに横浜時代からバーが好きで、それも主人がTシャツにジーパンというような、いい加減な店が好きでしたね。どうやって、この店は成り立っているんだろう、というような。音楽も好きでしたし、いつかバーをやりたいって思いはあった。それと残り2割は、脱・企業型社会を目指すんだという社会的動機。僕らは、就職氷河期の第一世代ですからね。いい企業だったんですが、会社って利益が上がらなくなると、どうしても官僚的になってくる。責任は取らされる上に裁量権はなくなる。するとみんな元気がなくなっていく。僕もこのまま続ければ病気になりそうだな、と思った」

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