10月3日にコロラド州デンバーで開催された第1回のオバマ・ロムニーテレビ討論会では、ロムニー候補が勝ったとする人が多かったとマスコミでは報道されている。社会保障、減税など様々な政策で両者の対立があったが、ロムニー候補の口調が歯切れ良かったと言われている。
しかし、ニューヨークタイムズ紙のコラムニストでもあるポール・クルーグマン・プリンストン大学教授は「根拠がない説明をしたロムニー候補は嘘つきに近い」と主張している。財源の裏付けがなくても新規の政策を打ち出せる挑戦者が有利ということだろう。日本でも数年前の総選挙で財源の裏付けのない政策で票を集めた政党があった。
エネルギー・環境政策でも両者の違いは際立っている。ロムニー候補は討論会で「私は石炭が好きだ」と言い切った。オバマ大統領が推進する再生可能エネルギーの導入による雇用創出については「まやかし、幻想だ」と非難しており、「米国は石炭をもっと燃やすことができる。石炭産業で働く人たちはオバマ大統領の政策で産業が壊されているように感じている。米国はエネルギーで自立し、雇用も創ることができる」と石炭産業に肩入れする立場を一段と鮮明にした。大統領選では、オバマ大統領が再生可能エネルギー、ロムニー候補が化石燃料導入の立場とみられているが、話はそう単純ではない。
両陣営とも石炭産業支援の不思議
ロムニー候補は「オバマ大統領は石炭産業の足を引っ張っている」とテレビ宣伝を流しているが、オバマ大統領も石炭産業を支援する立場を打ち出しており、ロムニー候補は石炭火力発電所に否定的だと非難するテレビ宣伝を流している。両陣営とも石炭産業支援を打ち出し、相手陣営は違うと非難している。なぜだろうか。石炭の産出が多く産炭州と呼ばれる、オハイオ州、ペンシルバニア州、バージニア州の票争いが激しく、石炭関連産業の支援が勝敗を分ける可能性があるからだ。
しかし、大統領選に勝つために石炭産業支援を打ち出すことは、どちらが勝っても大統領戦後に大きな問題を引き起こす可能性がある。シェールガスの生産増により、電力会社向け天然ガス価格が急落しており、米国内で石炭が急速に価格競争力を失っているのだ。米国の石炭の90%以上は電力会社が使用している。数年前まで米国の電気の半分は石炭から作られていると言われていたが、今や石炭による発電は40%を切るレベルだ。電力会社が競争力のあるガスに燃料を切り替えているためだ。国内の使用量が減少傾向にある石炭産業への支援策を打ち出すことは可能なのだろうか。