2024年4月20日(土)

ベテラン経済記者の眼

2012年11月30日

 実際にメディアは敏感に反応した。解散翌日の11月17日の朝日新聞は、日経平均株価が9000円台を回復したことを受けて「安倍緩和 市場前のめり」と報じた。この時期から、他のメディアも「安倍相場」、「安倍トレード」といった言葉を多用するようになる。読売新聞も22日、自民党の政権公約に安倍氏の考えが大きく反映されていることを受けて、「成長重視安倍カラー デフレ・円高是正最優先」と解説した。

 安倍氏の発言はさすがに後になってややトーンダウンしたが、直接引き受けであれ、オペレーションであれ、日銀に国債の購入を過度に期待する議論が展開されているのは注視する必要がある。

問われる経済報道の役割

 とはいえ、金融政策そのものにまで手をつっこんで、選挙の争点にしようとするのはやはり異例だ。英フィナンシャル・タイムズ紙は11月20日の社説で、「日銀への不満がたまるのはある程度理解できる」としたものの、「金融政策だけでは日本経済の成長を阻害する要因を取り除くことはできない」、「金融政策の政治利用を避け最善の方法は中央銀行の独立だ」といち早く冷静に主張した。

 11月25日の日本経済新聞は「大胆緩和 問われる手段 副作用の懸念も」とする解説で、デフレ脱却は与野党共通の政策課題だが具体策をめぐっては専門家の間で議論が割れていると指摘。副作用もおこりかねない点を読者に提示した。

 筆者自身は、日銀や財務省を取材した経験から、紙幣を発行できる日銀に対して国債の直接買い取りを求めるとしたら、戦時中の国債増発で財政規律が崩れ、超インフレを招いた歴史の経験をふまえれば危険な手法だと考えざるを得ない。そこまでではなくても、財政赤字のファイナンス(穴埋め)を何らかの形で政府が日銀に期待しているのであればやはりおかしいし、そうでないなら丁寧な説明が求められると思う。海外の投機筋などに付け入る隙を与え、金融市場が混乱しかねないからだ。

 とかく選挙になると、有権者の歓心を買おうと、政治家や候補者からは甘言を含む目立った発言が多くなりがちだ。しかし、「選挙だからなんでもあり」の政策では結局、有権者に見抜かれ、信任は得られない。選挙戦のさなかの経済報道も、表面的な動きに流されるのではなく、冷静・中立に政策の課題や論点を指摘し、選択の視座を有権者に示すことが大切だと、今回の流れをみながらあらためて思った。


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