2024年5月6日(月)

WEDGE REPORT

2021年11月8日

 今年7月1日、北京の天安門広場で開催された中国共産党創立100周年祝賀大会において習近平総書記は、「中国共産党の指導の下で国家の独立を達成するとともに今や世界第2位の経済大国にまで発展することができた」と、その功績を讃えた。また、近代的社会主義強国建設や中華民族の偉大な復興といった「中国の夢」を実現するために、習近平氏を核心とする党中央の権威と統一指導を堅持する必要性を強調した。

今年9月、日中戦争の犠牲者などを追悼する「烈士記念日」式典での習近平国家主席。いま中国国内で山積する課題に、どう向き合うのか (REUTERS/AFLO)

 習近平氏をめぐっては、かねてより国家主席の任期撤廃や総書記の権限強化などの〝強権化〟が指摘されている。だが、建国の父である毛沢東氏、改革開放を主導した鄧小平氏と比較し、就任前の習近平氏には、両者に匹敵するような実績があったとは思えない。

 そのため、習近平氏が総書記として中国を率いていくのは容易ではなかったといえる。そこで習近平氏が総書記に就任する前後から精力的に進められたのが、中国のリーダーにふさわしい「実績づくり」と「カリスマ性の演出」である。

 就任後、習近平氏が主導した反腐敗闘争では、徐才厚元中央軍事委員会副主席をはじめ、前例を破ってまでも中央政治局常務委員経験者である周永康氏を摘発するといったような耳目を集める挙に出て、党内外に強力なリーダーという印象づけを行った。

 また、毛沢東氏は卓越した軍事指導者であったし、鄧小平氏も軍に対する強力な影響力を有していたように、中国のリーダーたる者は軍事面での実績も必要とされるがゆえに、南シナ海への進出や空母の建造なども、習近平氏の実績づくりの一環と捉えられよう。

 以上の点を踏まえると、習近平氏が、結党100周年大会を利用して「強力なリーダー像を無理して作り上げている」という印象が否めない。すなわちその演出とは裏腹に、習近平氏の権威や中国共産党による統治の脆弱性を図らずも暗示しているのではなかろうか。

 そのことは、ここ最近の中国で起こっている出来事からもうかがえる。例えば、33兆円余りの巨額負債により世界経済をも震撼させた「恒大事件」、学校教育の負担軽減や学習塾への管理強化、ネット通販最大手のアリババやIT大手のテンセントへの規制強化、そして人気女優の趙薇氏や鄭爽氏への制裁など、耳目を集める出来事が立て続けに起こっているが、それらは習近平政権が抱く焦燥感の表れとも捉えられよう。

 本稿では、特に問題の大きい社会保障制度や中央による地方に対する統制、そして中国共産党の政策を末端レベルで遂行する組織が抱える深刻な課題などを考察することで、習近平政権が直面している中国の「壁」を描き出したい。


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