2024年5月20日(月)

#財政危機と闘います

2021年10月25日

 厚生労働省政策統括官付政策立案・評価担当参事官室「所得再分配調査」より、所得の不平等さを測るジニ係数の推移を見ると、所得税や社会保険料を支払う前の当初所得ジニ係数によれば、1990年以降上昇(つまり、所得格差は拡大)を続けてきたものの、2014年をピークに17年は低下している。

 さらに、当初所得から税・社会保険料を控除し、年金などの現金給付、医療・介護や保育などの現物給付を足し合わせた再分配所得ジニ係数の推移をみると、1990年以降では、2005年をピークに17年に至るまで、総じてみれば低下している。つまり、巷間に流布するアベノミクスが所得格差を拡大させたという指摘は、当初所得・再分配所得のどちらで評価しても誤解であり、むしろ円安誘導などによる雇用環境改善や、主に社会保障による再分配効果で所得格差は縮小に転じたのだ。

 誤った現実認識の上に、矢野次官が指摘するように、コロナ禍を口実に、「タイタニック号が氷山に向かって突進しているよう」にバラマキ合戦を繰り広げて、日本財政を破綻に至らしめようとしているのは、無責任のそしりを免れまい。

嫌悪される消費税

 給付金とは異なり、与党が慎重で、野党が前のめりなのが、消費税減税(廃止)である。消費税は、消費税法上、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費(社会保障4経費)に充てるものとされ、事実上、社会保障目的税と位置付けられている。

 実際、消費税収は21年度当初予算では20.3兆円と見積もられ、社会保障にとって非常に重要な役割を示している。与党は現在政権の座についており、社会保障の持続可能性を確保しておくことはいかに重要であるかを十分理解しているので、消費税減税に慎重なのは当然だ。

 一方の野党は現在政権の座についておらず、財政運営に徹底的に無責任になれるため、消費税減税(廃止)を唱え、ただでさえ借金に依存している社会保障財源に穴を開けてもお構いなしの姿勢だ。

少子高齢社会に消費税が必要なシンプルな理由

 ここでは、簡単な仮想的な数値例を用いて、働く人が減る社会における基幹税には消費税が適している理由を解説したい。

(1)所得税の場合

 いま、ある国の総人口は100で、内訳は、勤労世代80、引退世代20。引退世代は一切働かないものとする。この国では、引退世代一人当たりの社会保障給付額は40で固定されているとすれば、社会保障サービスを維持するのに20×40=800必要になる。

 このとき、社会保障サービスを維持するのに必要な財源の調達手段が、所得税だけの場合を考えてみたい。

 引退世代は働かないと仮定しているので、引退世代向けの社会保障サービスのコストはすべて勤労世代が負担することになり、800÷80=10で、勤労世代は一人当たり10負担しなければならない一方、引退世代の負担は0である。

 次に、この国で、少子高齢化が進行し、勤労世代40、引退世代60になったとしよう。

 従来通り、所得税だけで社会保障サービスを維持するならば、勤労世代の一人当たりの負担は60(=60×40÷40)と、少子高齢化が進行する前の6倍の負担に激増してしまうものの、引退世代の負担は相変わらず0のままとなる。さすがにこれでは不公平であるし、勤労世代の不満が高まってしまうだろう。


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