2024年5月3日(金)

Wedge SPECIAL REPORT

2021年11月22日

防護手段のない海底ケーブル
切断時を想定した作戦を

 今やインターネットを含む国際通信の約99%は海底ケーブルが担っており、通信衛星による国際通信は1%にも満たない。日米間をつなぐ海底ケーブルは約9000㌔メートルだが、通信衛星を介した場合、往復で約7万2000㌔メートルかかることから、通信速度と容量で勝る海底ケーブルが主流となっている。その海底ケーブルを守る術がないのが実態である。

 海底ケーブルは、沿岸部では海流の動きが激しいことや地引き網漁などの影響を受けないよう海底に埋没させているが、深海域では全くの無防備なのである。海底ケーブルの太さも沿岸部では直径6㌢メートルだが、深海部ではわずか2㌢メートル程度のものだ。「ケーブルが切断されないように防護するためのシールドで覆えばよいのではないか」との声が聞こえてきそうだが、ケーブルの切断は通常、ミサイルや爆弾、もしくは強力な錨を用いて行われることから、事実上、防護手段はないのだ。

 海底ケーブルの切断は1994年に発効した「海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)第113条 海底電線又は海底パイプラインの損壊」によって、各国で犯罪とするよう求めている。UNCLOS第113条は、あくまでも公海上にある自国の船が海底ケーブルを切断した場合、その行為を犯罪として処罰するよう各国に求めているのみで、他国の船が公海上で故意に海底ケーブルの切断を行った場合は、規定していない。

 ちなみに、日本はUNCLOS条約の加入国であるが、いまだ第113条に基づいた立法はなされていないし、米国、トルコ、ペルー、ベネズエラなどは、UNCLOS条約に加入すらしていない。また、現時点において、わが国の海底ケーブルの防護は、民間の通信事業者に任せられており、他国の軍事活動による脅威は、全く考慮されていない。日本政府は、これまで国際海底ケーブルが切断された場合の影響や損害額などのシミュレーションなど一切してこなかったのである。

 米国防総省は、2018年の米国国家国防戦略において「モザイク戦」というコンセプトを打ち出している。「モザイク戦」とは、ネットワークが破壊されてもシステム全体の機能の低下を防ぐため、従来の軍の構成部隊を戦況に応じて柔軟に再配置できるような高次な戦法で、よりコンパクトに、低コストで運用できるというものだ。従来の戦略全域にわたる通信が確立している前提での戦いではなく、有事の際に電磁波攻撃やハッキング、そして海底ケーブルの切断など、ネットワークが利用できない事態を想定した戦いが今後ますます重要になる。

 日本も台湾有事の際のサイバーリスクを認識するとともに、海底ケーブルが切断された場合の日本国内の事態を想定しておかなければいけない。特に、自衛隊にはネットワークが利用できない事態に備えて、米軍の海兵隊のように自己完結型で自律的な作戦遂行能力を高めることを期待したい。

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